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 暫く篁の様子を探っていた檜佐木は、また彼女の機嫌を損ねたと見てもう何も言わず布団に潜る。同じ天井、同じ布団、いつもとは違う隣の空気。それが不思議と心地好い。ここ数日は布団に入っても思考が途切れずただ夜明けを待ってのだが、今日はよく休めそうだ。久しぶりの睡魔が檜佐木を襲う。

 衝立の向こうはもう静かだ。檜佐木は少しの間ーーもちろん悪いとは思いつつも、興味が勝ってしまったーー篁が寝事を言うだろうかとと思って聞き耳を立てていたが、向こう側からは衣擦れの音しか聞こえない。実際は篁は入眠した訳ではなくただ固まっているだけなのだが、檜佐木は気付かなかった。

 同志として気を許してくれているのか、はたまた異性として一切意識されていないのか。衝立に背を向けるように、寝返りを打つ。

  
 ーー思えばこいつも、随分変わった。最初から生意気で面白い奴だとは思っていたが、最近はそれだけじゃなく、随分と人間らしくなった。多少弱みも見せてくれるようになったし、最初の頃よりずっと表情が豊かになったし、それに意外とーー。


 刹那、夢とうつつの間で、脳裏に吉良の言葉が蘇る。


『補佐官だからないって、まさか本気で思ってるんです?』


 それは、全身に電撃が走ったような衝撃だった。驚いて飛び起きれば、ついさっきまで穏やかだった己の心臓は別の生き物のように音を立てている。頭の中には訳のわからない疑問符ばかりが浮かんでいた。自身の身に何が起きたのかわからない。けれど、鏡を見ずとも自分がどんな顔をしているのくらいはわかる。


 ーー俺、今、何考えてた?
 

 いても立ってもいられなくなり、檜佐木は誰に見られる訳でもないのに、両手で顔面を覆い隠した。ため息をつきがてら指の隙間からこっそりと隣を横目に見るが、幸か不幸かきちんと責務を果たす衝立のおかげで向こうの景色は確かめようがない。
 檜佐木はできるだけ音を立てないようにゆっくりと布団に倒れる。隣から聞こえるなんて事の無い衣擦れに、また性懲りも無く心臓の速度が早まった。


 檜佐木は頭を抱え、心の中で舌を打つ。
 また、眠れない夜を過ごすことになりそうだ。
 



     ***
 


 次の日の早朝、篁は檜佐木よりも早く目を覚ました。慣れない布団で上手く寝返りが打てなかったのか、体の節々が固まっているような気がする。というか、寝た気もしない。
 まだ外は暗く、人の気配も少ない。悪いと思いつつそっと衝立の向こうを覗くと、檜佐木は悪夢に魘されているのか、眉間に深く皺を寄せ低く唸っていた。
  
 なるべく音を立てずに布団を畳み、誰にも見られない様にこっそりと自室に戻る。
 冷たい水で顔を洗いたい気分だった。

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