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 その夜はなかなか寝付けなかった。

 ――抑えたような男の声がずっと木霊している。どこか悲しそうに微笑むその瞳には、何が映っているのだろう。私がどう見えていたのだろう。彼が自身の正道に惑い振り返った時、そこには何が在るのだろう。彼の正義の奥深くにある欠片は一体、どんなものなのだろう。
 
 のうのうと生きてきた百余年、その空白。自分が此処に立っている理由はまだわからないけれど、あの人と一緒に居れば、あの人の瞳の奥の景色を共に見ることができれば、その答を手に入れることができるのかも知れない。

 
 あの人の近くで、あの人の正義の行先を共に見届けたい。 

 あの人の正義が、慈愛が、私の導になるのだ。そんな事ばかりが頭の中を駆け巡っていた。自分の単純さに驚くが、身体中に流れる血がすっかり入れ替わったようだった。初めて湧き出る生きている実感。気づけば訳もわからず涙が溢れて、枕を濡らしていく。悲しいのではない、悔しいのでもない。きっと私はいのちの使い方を見つけることができて、魂から歓んでいるのだと思う。

 
 その日から、篁は今まで以上に鍛錬に勤しんだ。通常の業務が終わればその足で道場へ向かい修行に明け暮れる日々。そうして彼女は、九番隊に移隊して十年が過ぎる頃には彼女は第三席にまで登り詰め、その人を寄せ付けぬ鋭さと立ち振る舞いから九番隊きっての女傑と評されるようになった。


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