この涙の理由を解き明かして

 興奮する。すげえ興奮してるのが自分でも分かる。またこうしてヤツを抱けることに対し、欲情が止まない。噛みつくことも、身体を触ることも何もかもが俺の心を捉えて離さない。
 ヤツが、好きだと思う。好きなんてレベルじゃねえ、もはや愛憎に近いのかもな。ヤツもきっとそうだろうということが何となく分かる。
 互いに、絶対に手に入らない存在だから余計に躍起になって互いを求め合ってしまう。そういう要素も、きっとある。
 俺には撫子、そしてヤツには鳴戸がいる。その存在の所為で俺たちはさらに、高みを目指そうとしてしまう。ただ簡単に手に入らないからこそのこの激情。そして、一生手に入らないからこそ、自棄になって手に入れたがる。
 それだけ分かっていながら止められないのはやっぱり、俺が本気でヤツを、龍宝を愛してるからだろうな。ヤツもきっと同じだ。本気で俺が好きだからこそ、無理に手を伸ばしてくる。
 そして、その手を取れるのはただ一人、俺だけだ。その優越にだけは浸りたい。鳴戸じゃねえ、ヤツが求めてんのは俺だというこの、限りない優越感。キレーでかわいくて、美人で淫乱で、そして愛おしいこいつを抱けるのは俺だけ。
 そう思うだけで歓喜で身体が震える。誰にもやらねえ。俺が生きている間は、こいつは俺のモンだ。誰のモンでもねえ。俺だけのモンだ。俺だけの龍宝だ。
 って、本当にそうだったらよかったのにな。俺がどれだけ想っても、ヤツはヤツだし俺は俺だ。その上、俺たちは互いに想い人を抱えてもいるわけだからそりゃ燃えるさ。燃えるだろう。
 決して手に入らないから、互いを抱きしめ合う。キスして、隙間を埋める。その繰り返しだ。こいつといる限り、それがずっと続いていく。けれど、それを由としたのは俺たちだ。俺たちが決めたこと。
 俺と龍宝がそれでもいいと思って、俺は龍宝の手を取りそして龍宝は俺の手を取った。硬く握り合えば合うほど、遠く離れていく存在。
 どれだけ想い合っても、決して一つにはなれない。だからこそ、さらに惹かれる。自分のモンにしたくなる。
 今こうしてヤツを噛んで、いい気分に浸っていてもこいつはこいつのモンで、鳴戸を想っている龍宝だ。そして俺も、ヤツに噛みつき快感を与えていても、違う日には撫子を抱いてる。
 なんていうジレンマだろう。
 けれど、それが俺たちの選んだ道だ。俺は龍宝を抱きながら撫子を抱き、ヤツは俺に抱かれながら鳴戸の帰りを待っている。
 つまりは、そういうことなんだろう。俺たちは決して、結ばれない。
 なんだろうな。涙が出てくる。俺がどれだけヤツを想っても、その想いはいずれ鳴戸の帰還によって失われるだろう。龍宝にしてみると、俺が撫子の元へ帰るたびに毎回、その気持ちを味わっているわけで、そんなんがいい関係なはずがない。
 じんわりじんわりと眼に涙が盛って、視界が悪くなる。
 ヤツの首から歯を外すと、ぶわっと一気に涙が湧いてきてそれは頬を伝ってシーツに零れ、身体を起こすとヤツが下から覗き込んできた。
「……はじめ、さん……? 何故……」
「ごめんな、龍宝。だめなのは、俺の方かもしれねえ……。お前に最初に手を出した、俺に非がある。だから、済まねえ」
 情けねえ涙声だったが、ヤツには伝わったようで覗き込んできたヤツの顔を見ると、ヤツの眼にも涙が盛っている。そしてそれが、すっとほっぺたの丸みに沿って零れた。
「泣かないで……そんな顔をして、泣いてはだめです。いつだって泣くのは、俺の役目でしょう? あなたは、泣いてはいけません。俺の弱さが移りますよ。あなたは強い人だから。その涙は、自分で止めてくださいって言いたいところですけれど……」
 中途半端なところで言葉を切ったと思ったら、ふわっと抱き寄せられ身体がヤツの腕の中に包まれる。
 その温かく、優しいにおいのする懐は存外に俺を安心させ、さらに涙が溢れてくる。優しい人間だ。俺は、壊してしまうかもしれない。ヤツを、龍宝をこの手で。元々が優しい人間であれば、こんな裏切りなんて耐えられないはずだ。鳴戸を裏切らせているのは、俺だからな。
「龍宝……お前、鳴戸のところへ帰りたいか」
 思わず聞いてしまった。なんて返ってくるのか、まったく分からない。ヤツはなんて答えるんだ。
 俺だと言ってくれ。どうか、俺を選んでくれ。そんなことが口にできるわけもなく、俺はヤツの懐でヤツの答えを待った。
 すると、柔らかくヤツが笑いさらにぎゅっと身体を抱きしめてくる。
「ばかですね、あなたは……本当に、ばかです。だから、ばかなあなたに分かるように……こうしてあげますね」
 こうしてって、なんだ。なにするんだ。
 そっとヤツが離れていったと思ったら、そのままほっぺたを両手で包まれヤツの顔がずいっと近づいたと思ったら唇にふわっとした真綿の感触が拡がった。それは何度も何度も繰り返され、驚きとあまりの気持ちよさに涙すら止まる。
「俺が泣いていると……いつも親分はこうして慰めてくれました。俺の気持ち……分かりませんか? 先ほども言いましたが、俺にとって帰ってきて欲しい人、それはあなたです。俺がキスしたい人も、抱いて欲しい人も全部、あなたですよ。俺の全部は今、あなたのモノです。親分のモノじゃない。俺が心から恋しいのはあなた、始さんですから。何度もそう言っているのに……あなたは分からず屋ですか? 涙まで流して……ばかな人です」
「龍宝……龍宝っ……!!」
「ああ、また泣く。どうか泣かないでください。あなたには泣いて欲しくないんです。泣くのはいつだって俺でいいんです。寧ろ、俺がいい。あなたに泣かれたらどうしたらいいか分からない。泣き止んで……」
 また降ってくる、優しいたくさんのキス。

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