揺らめく陽炎みたいな貴方たち

 唇を解放してやると、ヤツは肩で息をしていて濡れた眼でこちらを見てくる。
「は、はあっはあっ……は、はじめ、さん……ん、もっと噛んで。たくさん、噛んでください。こことか、こことか、ここ」
 ヤツは二の腕と、脇腹そして太ももの内側を指定してきやがった。
 そんなに噛まれたいなら、噛んでやるよ。だが、痛いって文句は言うな。ま、言わねえか。だってこいつ、痛いのも好きなんだもんな。
 まずは、二の腕だな。それも内側の柔らかいところ。
 ヤツの腕を持ち上げそして、取りあえず噛もうとしているところを舐めると、途端色気が滲み出しうっとりとした表情になる。
 そして大きく口を開け、思い切りがぶりっと噛みつくと「ああっ……!」そう言って首を横に向けて目尻に涙を滲ませた。これは、相当痛かったと見た。だが、止めてやらねえぞ。噛めって言ったのはお前だからな。甘んじて、受け止めろ。
 一度歯を外し、片手でヤツのあごを捉えてこちらを向かせる。その眼は潤んでいて今にも涙が零れそうだ。
「……痛いか」
「痛い……すごく、痛いけどでも、止めて欲しくはないんです。もっと、きつく噛んで欲しい……噛み痕、たくさん欲しい」
 涙声でそう乞われては、こちらの気も動いてしまう。いや、止める気なんて端からねえんだけどさ。
「噛むぞ。痛いが……お前は痛いのも好きだから思いっ切りいく。覚悟しとけ」
 高らかに宣言してやると、ヤツののどがこくりっと動いたのが分かった。そして何処か物欲しげな表情へと変わり、自分から腕を差し出してくる。
「……イイコだ。イイコには、こうしてやらねえとな。ご褒美だ。受け取れ」
 そうは言ったが、こいつには好きな噛まれ方がある。それをしてやらねえことには本当に噛んだことにはならない。こいつがそういう気になる噛み方をしてやらねえと、絶対満足はしねえだろう。
 こいつはそういうヤツだ。何処までもやらしいヤツだからな。根が淫乱だから仕方ねえ。本当の淫乱というものを、こいつを通して知ったことでもある。
 柔らかな肉を愉しむため、舌を出して大きく舐めてやり歯を当ててゆっくりとあごに力を入れていく。
「んっ……! あァっ……!!」
 ぴくっとヤツの腕が動いたが関係ねえ。そのまま徐々に噛む力を強くしていくと、腕がだんだんと桃色になって、ヤツの赤かったほっぺたがさらに赤くなる。口を半開きにして眉を寄せ、何とも色気のある表情でじっと俺を見ている。
「は、はあっ……はじめさん、始さん、感じるっ……ん、はあっ、んっんっ、痛いっ」
 未だまだだろうがお前は。
 俺はヤツと目線を合わせながら口元を歪め、笑いながらさらに強く噛むとじわっと、表情に艶っぽさが出て、熱い吐息を一度大きくつき、また名前を呼んでくる。
「んっ、痛いっ、痛いです、はじめさんっ、あっあっ、は、始さんっ! はっ、ああっ、あっあっ!」
 こんなモンじゃねえだろうが。もっとだ。
 本格的にあごに力を入れて柔らかい肉の感触を味わいながら齧りつくと、ぶるっとヤツの身体が震えた。そして、顔の赤みが強くなる。歯が気持ちイイ。そのまま舌を伸ばして口に含んでいる部分を舐めると、また再びヤツが震え「はあっ……!」と色っぽい溜息のような喘ぎ声を出した。すると、それが引き金になったのかヤツから訴えのような声が聞こえてくる。
「んっ、やっ……はあっ、痛いのに、すごく痛いのに気持ちいっ……! ああっああっ、は、始さんっ、はじめさん、気持ちいっ、気持ちいっ!」
 半泣きで訴えてくるヤツはかなりかわいく、そして色っぽかった。さらに噛む力を強くしてやる。ずっと聞いていたくなるような声だ。
 もっと強く噛んでやると「ふぐっ……!」そう言って顔を下へと向けて、今度は目頭に涙の粒を寄せた。どうやら、かなり痛いらしい。だが、これくらいしてやらねえと、こいつは満足しねえ。
 しかしそろそろここまでかなと、そっと歯を外してやるとヤツがホッと息を吐いたのが分かった。
 そして噛んだところを見てみるとくっきりと歯型に鬱血痕がついており、キレーに歯の形に並んでいるそれは見ても痛そうだ。
 慰めるつもりで丁寧に舌を使って舐め始めると、途端にヤツの表情に色が滲み出し、俺が舐めるところをうっとりとした顔で見つめてくる。
「んっ……はあっ、気持ちイイ……。噛まれた後のこの感覚、すっごく好きです。だめです、好き過ぎる……! はっああ、気持ちいっ」
 俺も何気に、ひどく噛めば噛むほど舐めるのが楽しくなる。多分だが、この飴と鞭ってのがきっと、互いに気持ちの上で落ち着くんだと思う。ひどくしてそれっきり、ではなくアフターケアとしてヤツの苦しみを癒すために舐めるという行為。これが俺たちに興奮と安堵を与えてくれる。微妙なバランスだが、それがイイ。たまらなく、イイ。
 ヤツの肌は汗ばんだ所為か、甘さが増していて舐めていても舌の上が気持ちイイ。噛んだ所為で凹凸はあるがヤツの肌も気持ちイイし、ヤツも噛まれて愉しいかもしれねえがこっちも充分、愉しませてもらってる。
 やっぱり、イーブンの関係でなきゃな。

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