はぐれど進まぬ孵化せぬはなし

 次は、肩かな、肩だな。
 汗ばんだ肌をさらりと撫でて、肩にいきなり齧りついてやると急に刺激があったからか、ビグッと一瞬身体が大きく跳ねるが、すぐに治まり熱い吐息をついた。
「あ、はあっ……ん、痛い、けど気持ちイイ……はあっ、は、もっとして、もっとがいい」
「お前って、エロいよな。でも、俺も興奮する。今からは加減せずいろんなトコ噛むけどいいな? いいって言え」
「いやだなんて……誰が言うんです。始さんに噛まれるの、大好きだから全然、いい……もっと、ひどくしてもいいんですよ? 始さんがいいように、好きにしてください。もっと、俺を攫って」
 相変わらず、クることを言うと思う。
 だったら攫ってやろうじゃねえか。どうせ、俺もお前も同罪なんだ。同じ罪被って、互いの想い人裏切ってんだ。
 もう今さらだ。なにもかもぐちゃぐちゃで混沌としてて、その中に俺たちは身を置いている。いつ死ぬか分からない毎日に、互いの体温を求めて居場所を無理やり作り、その中で愛し合う日々。
 愛おしくないはずがない。俺を選び、俺が選んだ相手と堕ちていくならばそれもまた、それで幸せなのかもしれない。
 肩を思いっ切り噛んでやると、背にひどい痛みを感じた。一瞬のことだが、顔が歪むくらい痛い。ということは、こいつもそれくらい痛かったってことか。だったら、慰めてやらねえと。とは言っても、こいつの場合、痛みも快感として取ってしまう部類の人間なので必要ねえかもしれねえが、それでも俺には大切にしたいと思う気持ちがある。
 肩から歯を外し、丁寧に甘い味のする真っ赤な歯形のついた肩を舐めると、ふうっとヤツが大きく熱い吐息をついた。
「あ、はあっ……は、はあっ、ん、気持ちイイ……はじめさん、好きです。俺の気持ち、分かってる……? ちゃんと、分かってますか」
「充分過ぎるほど知ってるよ。なんだいきなり」
「は、始さんからも言って欲しい……俺が好きだって、言って」
 めんどくせえ野郎だな。でも、そういうところも含め、かわいいんだよなあ……俺も、相当堕ちてんな。こいつの魅力にメロメロだ。
 肩から顔を上げ、真っ赤に色づいたほっぺたに頬ずりしてやるとくすぐったそうに笑い、さらに促してくる。
「始さん、言葉。言葉ください」
「あーあー、もうっ! 分かったって。俺もお前が好きだし、愛してる。これでいいか」
 すると今度は拗ねたような表情に変わり、髪をくしゃくしゃと乱してくる。
「そんな、やっつけ仕事みたいに……心を籠めて言ってください。俺が本当に好きなら……ちゃんと言って」
 そう言って、両手で俺のほっぺたを包み引き寄せてくる。
 目の前には顏の造作が整い過ぎて凄みがある美形がいて、その眼だけは潤みに潤んで黒目がゆらゆらと揺れて俺を映している、そのほっぺたは熟れたりんごみたいに真っ赤でつやつやしてて美味そうだ。
「早く、言葉ください。始さんの、声聞きたい……」
 だが俺は無言のまま、至近距離にあるヤツの唇を強引に奪ってしまい、啄むようにキスすると、すぐにヤツは乗ってきて拙い舌使いで俺の舌を突いてくる。その舌を絡め取り、ぢゅぢゅっと音を立てて舌の上に乗ったヨダレを啜り飲む。
 やっぱり、甘い。砂糖水みてえだ。いや、それよりももっとフルーティでそれでいてジューシーな感じ。極上の体液だ。もっと欲しくなり、唇に触れるだけのものを何度も施して、それと並行して舌を使い、ちろちろと半開きの口のナカに眠るヤツの舌を舐める。
 そっと目を開けると既にヤツの眼は開いていて、上目遣いでほっぺたを真っ赤にしながら俺を見ていて見つめ合いになり、舌と舌とを合わせながら舐め合うと、うっとりとした表情に変わり、まるで匂いそうな色気を放ってきやがる。
 これだから、こいつとのキスは止められねえ。そのまま細かく舌を動かし、ヤツの舌を味わうようにベロベロに舐めてやると、今度はくすぐったそうな顔に変わりそれがかわいくてついつい、噛んでしまうと、途端、また色っぽい表情に戻りほっぺたが真っ赤に染まる。
 こいつはあれだな、やっぱり色気がある顔が一番よく似合う。エロくて、やらしくてかわいいツラだ。そのツラをもっと見たくて、柔らかく何度も舌を噛んでやると、どんどんほっぺたが赤くなっていって目が潤み、涙が零れそうになってる。
「ん……はじ、め、さっ……んっんっんむっ、ふっは、あ」
 囁くように呼ばれ、その声に煽られてしまいつい、きつく舌を噛んでしまうと一瞬ぎゅっと目を瞑ったがすぐに開いて俺をじっと見つめてくる。何とも艶っぽい表情で見てくるもんだから、加減なく何度も舌を噛んでしまう。
 噛めば噛むほど、ヤツの表情は蕩けるように甘くそして、苦しそうでもあり気持ちよさそうでもある、何とも複雑なその顔が非常に男って性をとことん煽ってくる。
 切なげに寄せられた眉がまた、エロい表情に拍車をかけ、さらにこちらの気持ちを昂らせてくる。まあ、こいつの性だろうがエロいヤツだぜ。天然でエロいってどうよ。
 鳴戸も、上物掴まえたよなあ。こんなエロくてかわいいヤツ、見たことねえし、出会ったことも無かった。こんなヤツ、いるんだ。
 改めて実感する。こいつを好き勝手できるのは今のところ、俺しかない優越にどっぷり浸れるこの幸せを。

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