桜の下の秘密

 ヤツ、俺の隠れた恋人である龍宝は意外と、スキンシップが好きだ。いや、好きなんてレベルじゃなくもうこれは性だろうな。触れ合うことに対して異常な執着を持っていると言っても過言じゃない。そんな勢いで、甘えてくる。
 二人きりになれば抱きつくのはもちろん、こちらから抱いてやればそれは喜んでさらに甘えてくる。見かけや普段の態度などでクールなヤツなのかなと勝手に想像してたら実は違ったってわけだ。
 だがそれに不満があるわけでもなく、俺もどちらかといわずともスキンシップ大好きなので何も問題なく、ヤツの甘えに付き合っている。
 ベタベタした恋愛なんて興味ないってツラしておきながら、ヤツはかなりロマンチックでそして、優しく涙脆い。そして何気にかなりエロい。
 もうハッキリ言っちまうと、モロに俺好みだ。何もかもが俺の心を捉えて離さない。こんな俺にピッタリなヤツに出会ったのは初めてで、それが男だろうがそんな障害も軽く乗り越えてしまえるほどに、俺はヤツにどっぷりとはまってしまっている。
 ヤツとするキスも好きだし、セックスはもちろんのこと素肌で抱き合うのもめちゃめちゃ気持ちイイ。ヤツは顔もキレーでかなりの美形だが、肌も負けず劣らずキレーで触り心地も抜群の、稀有な存在だ。
 女でもこんな上物に出会ったことがねえってくらい、何もかもが俺の好みを突きまくってくる。
 愛おしいヤツだと思う。これから先、俺たちのようなアウトローが幸せになれるとも思えねえが、それでもという気持ちもある。
 ヤツと幸せになりたい。だが、ヤツには鳴戸がいてそして、俺には撫子がいる。それを互いに承知の上で、こうして今も隠れながら寄り添っているわけだ。
 俺たちはズルい。そして、最低だ。それも重々分かってこいつと居る。
 手放したくない。だが、撫子も手放したくない。かなり複雑な事情で共にいることを、ヤツは本当はどう思っているのだろうと考えさせられることも時々、ある。
 何しろ、ヤツはただただ鳴戸を待ち続けるといったことしかできないが、俺には傍に撫子がいる。手の届くところにいる限り、龍宝だけに構っていられない時があるがそういった場合、ヤツは何を思って俺を待っているのだろうと、そういうことだ。
 鳴戸を待ち、そして俺の帰りをただ待つだけの龍宝。それしかヤツにはできない。そのことに対し、かなりの引け目を感じていることも確かだ。
 互いに分かり合っているつもりでも、俺が撫子の家へ帰ろうとすると、なんでもないといった顔を見せるが、目が潤んでいたり明らかに残念がっている様子で見送られると、気持ちは撫子というよりも龍宝に移る。
 独りにしておきたくねえと思っちまう。すると、結局のところヤツのところに留まったりすることもここのところ、増えるようになった。
 だって、すげえ悲しそうなツラするんだ。口では「また、気が向いたら」みたいなことを言うが、淋しがっていることだけはビンビン伝わってくる。
 同じように愛すると言っておきながら、俺は龍宝を幸せにできているのだろうか。そう不安になることもしばしばある。
 だが、それを明らかにしたことは無い。言って、関係が壊れるのがいやだ。それほどまでに惚れているのならヤツ一筋にすればいいと思ったりもするが、結局俺は、卑怯者のまま、ヤツの傍に居るのだった。
 今日も、定例幹部会の後にめし食いに行ってヤツの家に寄ることになっている。その場合、100パーセントの確率で泊まっていく。途中で帰ったことは一度も無い。
 帰りたいとも、思わない。ヤツと同じ空気を吸っている限り、撫子の元へ帰ろうと思わないのだ。
 帰ってやらなければとは思うが、実際に帰ったことは無く、龍宝とこの上なく甘い時間を過ごして、満足を抱えて撫子の家へと帰る。
 眼を潤ませて、悲しむヤツに背を向けて。
「斉藤さん? 始さん、どうしました。何か考え事ですか?」
 おっと、いけねえいけねえ。セックス後の大事な甘い時間に考えることじゃなかった。しまったな。
「なんでもねえ。いや、お前は相変わらず胸の上が好きだなと思ってよ。そんなにイイか、心臓の上に頭置くの」
 すると、ヤツはほっぺたを赤く染めてはにかみさらに擦り寄ってくる。
「こうするとね……始さんの生きてる音がするんです。とても、安心する音……とくんとくんって、まるで耳まで抱かれてるみたいな、そんな気分になるんです。すごく、好きだなって思える時でもありますし……」
 胸に触れているほっぺたの部分が熱い。はああ、照れてるなこれは。かわいい、かわいいヤツ。
 手を伸ばして緩く後ろの髪を撫でてやると、さらに胸が熱くなってくる。
「顔見せな。どんな顔してる?」
「……や、それは、いやです。きっととても、恥ずかしい顔してますから……」
「見せろっつったら見せろ。俺とお前の仲だ。いいだろ? ほらー、顔上げろって」
 すると、恐る恐る胸に張り付いていた顔が上がり、ヤツのかわいらしい真っ赤な顔のお出ましだ。すっげえ、かわいい。眼は潤んでなんかゆらゆら光ってるし、ほっぺたは熟れたりんご見てえで真っ赤っかのつやっつや。唇は今は少し引き結ばれてて、でも充分に美味そう。
 相変わらず、そそるツラしてやがる。

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