Love Story

 大きく息を吸って吐き、泣き崩れている龍宝の身体に腕を伸ばしてこれ以上なく強く抱きしめてやる。
 ひどい抵抗に遭ったが、関係ねえほどにきつく抱いてやるとだんだんと抵抗が止み、戸惑いというものが滲み出てきたのが分かった。
 腕の中でヤツは細かく震えていて、小動物かなにかを連想させるような弱さが見えた。
「さいと、さん……? なんで、帰らないんですか……」
「なあ、俺はさ、お前も撫子も好きだ。おんなじくらい、好きだ。それは、否定しない。ひどいこと言ってるってのは自覚してる。けど、お前の手を離す気はねえんだ。絶対に、それはねえことなんだ。勝手を言ってるのは分かってるし、お前の言う通りこの部屋から出て行くことは簡単だが、俺は出て行かねえ。ここにいる。お前の傍に、ずっといる。……はは、矛盾だな。この問題に、答えなんてねえのかもしれねえけど、でも……」
「……は、始、さん。俺と、罪を背負ってくれる覚悟はありますか。俺はおやぶんを愛してるし、あなたは彼女を愛してる。でも俺たちは互いに惹かれ合ってる。その感情に任せて、互いの想い人の信頼を裏切りながら俺を愛してるって、言えますか。俺は、言えます。ハッキリと言える。あなたが好きだって言える。でもあなたは、違うでしょう……? 言えないでしょう」
 そう言って、ヤツは妙にゆっくりと瞼を押し開けた。そこで見えた黒目はもう揺れてはいなくて、真っ直ぐに俺を射抜くように見つめてくる。
 俺はその眼を見つめ返し、ほっぺたを両手で包み込んで親指の腹でヤツのつやつやの肌を優しく撫でた。
「……愛してるぜ、龍宝。お前だけって言えないのが、少し悲しいけどな。でも、愛してることに変わりはねえよ。だから、罪ってんなら一緒に背負っていこうぜ。俺はお前を愛し続ける。その自信はある。お前こそ、覚悟はできてんのか。俺と一緒に罪被る覚悟。二人一緒なら、罪もさほど重くはねえよ。罪悪感も無い。だから、堂々と言ってやる。お前を愛してる、龍宝」
「俺も……あなたが、始さんが好き。大好きです。一緒に、背負いましょう。俺はあなたとならなにも怖くない。傍に居てくれるんだったら、怖いものなんて何もない。愛してます……ずっと、あなたを」
 そして俺たちの関係は、この日から大きく変わった。
 ヤツは時折、鳴戸の名前を出すがそれに愛情を感じているかどうか、俺には分からなくなっていた。それよりも、もっと確かなものを感じる。
 俺たちの日々は、日を追うごとに絆や愛情そういったものを互いに育て合うような、そんな毎日で俺は存外、満たされていた。
 ヤツもそうだっていうのが、傍に居ると分かる。
 今も、いつもの如くこいつとの嵐のようなセックスが終わり、胸にヤツの頭を乗っけて情事後のまったりした時間を愉しむ。
 はあ、今日も激しかった。ヤツとのセックスはいつも激しい。だが、何故か激しければ激しいほどに燃えるし満足感が手に入る。だから、止められない。二人きりになるとヤツから求めてくる時も多いが、俺から率先して抱くことも最近ではかなり頻度が高い。
 だって、気持ちイイし。ヤツはかわいいし。大満足だ。
 龍宝は俺の胸の上に頭を置いていたが、徐に顔を起こしてあごを乗せてこちらを見てくる。
「なんだ、じっと見やがって。ははあ、見惚れたか、俺があんまりいい男なんで、羨ましくなったな」
「いえ、でもそうかもしれません。始さんって、サングラス取るとすごくきれいな顔をしてますよね。なんていうか、同じ男でも惚れるくらい、きれいな顔で……俺は、少し険があり過ぎるので自分の顔、あまり好きじゃないんです」
 そう言って目を伏せたヤツのほっぺたを片手で包み、親指の腹でしっとりさらさらの頬を撫でてやる。
「ばか言え。おめーはキレーなツラしてるよ。そんなこと他の男に言ってみろ。殴り殺されるぞ」
「返り討ちにしますけどね」
 くすくすと笑い、無邪気な笑顔を浮かべて俺の手に擦り寄ってくる。かわいいなあ、こういうとこ。こういう風に甘えられると最近は、何だか複雑な気持ちになる。
 独り占め、という言葉が頭を過ぎる。ヤツが鳴戸を想っていることに対し、前はそんな風には思わなかった。けど、こいつと一緒に居ればいるほどに愛おしいって思う気持ちが日に日に強くなる。そのたびに、こいつの笑顔は俺のモノだけにしたいと、思ってしまうのだ。
 罪が深い、そう感じる。
「なあ、龍宝」
「なんでしょう? 声が何処か沈んでますけど、なにかありました?」
「いや……ただ、お前が愛おしいなと思っただけだ。なあ、お前は今でもあいつを……いや、なんでもねえ、気にすんな。好きだぜ、龍宝」
 愛の言葉で誤魔化すなんて汚ねえ。俺は汚い男だ。だが、龍宝は素直にその言葉を受け止めてくれたらしく、ほっぺたを真っ赤にしながら身体を伸び上がらせてキスを強請ってきた。
 その唇を受け止めながら、何処かで鳴戸がもう帰って来なければいいと願う自分に、唾を吐いた。
 罪に塗れるのは、俺だけで充分だ。
 キスを解くと、ヤツはうっとりとした顔を見せそして耳元でこんなことを囁いてきた。それも、涙声で。
「あなたがもうここから一歩も出て行けないよう、殺してやりたいと思ってしまう俺を、許してください……」
 そっか、お前もか。
 俺たちは共犯者だ。互いに想い人がいながら、こんなところまで来てしまって、帰る道はもうどこにも無い。ただ、罪を背負いながら快感を貪って進むだけだ。
 どこまでも、どこまでも。どちらかが死ぬまで。

Fin.

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -