ゆるやかな狂気

 そのうちに、蕩けるような、それでいて激しい喘ぎ声が耳に届くようになる。
「あ、あっ……!! ああ、ああっ!! あ、んあっ、んああっ!! や、尻やっ!! やっやっ!」
「気持ちイイんだろ? 声が甘いぞ。なにがいやだ、この淫乱が、うるせえ黙ってろ」
 すると、さすがに言葉がきつかったらしいヤツが震え始め、鼻をずずっと啜る音が聞こえたことで漸く、尻から意識が離れ、慌てて身体を反転させるとヤツはしっかりと泣いており、眼に涙がたくさん溜まっている。
 しまった、やり過ぎた。つか、言い過ぎたの間違いか。
「泣くなっ、泣くんじゃねえ!! 俺が悪かったから、なっ? なっ? 泣いてねえでかわいい笑顔見せてくれよ。龍宝、ごめんって」
「うっく、おれ、いんらんじゃない……淫乱じゃない!!」
 ぐすっと鼻を啜り、大声を出したと思ったらぷいっと横を向いてしまう。こりゃ、仕切り直しだな。まずはこいつの機嫌取りをしねえと。
 身体を伸び上がらせ、ヤツの顔を両腕で跨いで顔を近づけ、ほっぺたにキスすると漸く、眼がこちらに向く。
「龍宝ー、ごめんな、また俺言っちまったな、お前のこと淫乱って。違うって、ただ気分が乗っちまってさ、言葉のあやだって。お前は淫乱じゃねえよ。だから、泣き止め。イイ声出して喘いでくれねえと気分出ねえよ。お前のイイ声、聞きたいなー」
 するとヤツはすんっと鼻を啜り、こんなことを要求してきた。
「俺の涙拭いて、優しくキスしてくれたら……淫乱って、俺を淫乱っていったこと許します。だって、淫乱じゃない」
 いや、充分淫乱だと思うけどな、とは言わない。これ以上機嫌を損ねたら折角のセックスがパーだ。そんなのは冗談じゃねえ。折角久しぶりに極上の身体が抱けるんだ。機嫌取りならいくらでもするぜ。
 なるべく優しく両手でほっぺたを包み込み、親指の腹で涙を払ってやる。それでも未だ、溢れ出てくるので根気よく拭ってやると、そのうちに少しだけ笑顔が浮かぶようになり、だんだんとそれが拡がっていって、照れたようなかわいい笑顔になった。
「優しい……斉藤さん。優しい斉藤さんは好きです。その……激しい、斉藤さんも好きですけど……」
 ほらな、やっぱり淫乱じゃねえか、とも言わない。
 言われた通り、飛び切り優しく真綿のキスをしてやると、今度はくすぐったそうな表情になり、首に腕が回る。
「好き……好きです、大好き、斉藤さん……好き」
 ああ、愛おしいなあ。こういう時、心底から想う。素直に好きって言ってくれるヤツが、心の底から愛おしく感じる。
「俺も……お前が好き」
 もう一度、同じキスをしてやると首に爪が刺さってちょっと痛いが、ヤツは笑顔だ。それがあんまりにもかわいくて、ほっぺたや額など様々なところに優しいキスをしてやると、ほっぺたを真っ赤にして悦んでくれる。クッソ、かわいいぜ! めっちゃめちゃ、かわいい。くちゃくちゃにしてやりてえなあ、この顔。愛おしいけど、そういう気持ちにもなる。こいつと居ると不思議なことが多い。特に、心の問題で。
 できる限り優しくしてやりたいという気持ちと、理性を無くすくらいにめちゃめちゃにしてやりたいという気持ちが、こいつを抱くとそういった想いがせめぎ合って、俺はいつもそのどちらにも傾いてはヤツをめちゃくちゃにしたり、優しく抱いたりしてきた。
 今日は、どっちが勝つんだろうな。抱いてる俺にも分からねえ。実際、抱いてみなきゃ分からねえのがこいつとのセックスだ。
 もう一度キスしてやり、至近距離でじっと見つめるとヤツも見てきて見つめ合いになる。
「さいとう、さん……」
 まるで溜息を吐くように細く、小さく名を呼ばれヤツの顔はだんだんと色のある表情に変わり、そして静かに淫乱に戻っていった。
 その様は今まで見たことが無いほどにキレーで、そしていやらしかった。こいつ、こんな顔して淫乱モードに入るんだな。散々抱いたのに、これは見たことが無かった。
 そのエロさに、一瞬眩暈がする。
 と共にやって来たのは強烈な欲情だった。
 すぐにでも唇を奪って、ぐりぐりと力任せに押し付ける。すると、さらに首にヤツの爪が食い込んできて、感じていることを知らせてくれる。
「は、んむっ、ん、んっ、んんっ、さい、と、さっ……んむうっ、ふっふっは、あっンッ」 
 息を乱しながら舌を伸ばしてヤツの唇を舐めると、すぐにでも口が開いたと思ったらヤツの舌が出てきて、また舐め合いに発展する。
 こいつの舌って、すげえ柔らかいんだよな。ふわふわしてて弾力があって、そんですげえ美味い。必死になって絡ませ合い、そしてヨダレを啜り合っていると気分が高まり過ぎてつい、ヤツの舌をきつく噛んでしまった。
「ん!! っんん!! んむううっ!!」
 ぎっと強く首に爪が刺さる。薄っすらとヤツの様子を伺ってみるが、怒っているというよりは寧ろ、ひどく感じているようにしか見えない。そうか、こいつは痛いのもイケるヤツか。これはいいことを知った。
 今度はわざときつく噛んでやると、薄目を開けて見ているから分かる。これは快感に歪む顔だ。
 眉毛が寄って、すげえエロいツラしてやがる。それと共に、少しの苦悶も見えてなんだかひどくエロいものを見ている気分になる。エロいというか、見てはいけないものを見てしまったような、例えるならそんな感じだ。

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