僕を構成するあなたの愛
そしてやってきたのは静寂で、鳴戸が無言で龍宝のナカからペニスを引き抜くとベッドに備え付けてある枕に身を任せ、手を拡げて来るのでそれに歓喜し飛びつくようにして腕の中に収まり、鳴戸の肩に頭を預け、片腕は肩に回り寄り添う形で二人で外を眺める。既に夕方という時刻は過ぎていたようで、いつの間にか部屋の中は暗くなっており街の明かりが目立ち始める。
触れ合っている熱いくらいの鳴戸の身体が気持ちイイ。
龍宝は微笑を浮かべ、そっと目を瞑ってますます身体を鳴戸に寄せて腕を屈強な身体に巻きつけ、肌のにおいを嗅ぐ。優しいにおいだ。
鳴戸はずっと空を見つめていて、自分の方を向いて欲しくなった龍宝はわざと擦り寄り甘えた声で呼ぶ。
「ん……おやぶん……」
「……龍宝。お前、ホントにキレーになったな。美人になった。そんで、強くなったな。俺相手にあそこまでやりあえりゃ、充分だ。お前はやっていけるよ。総長を護って、カシラとして二代目として立派にやっていける。もう俺の手は、必要なくなったな」
「そんなっ……何を言っているんですか! 俺なんて、親分相手に無様にもあんな姿を晒した男ですよ!? もっと、親分にはいろいろ教えてもらいたいことがあります。一緒に居て欲しい。べつに、ナンバー2でも構わないんです。鳴戸組に、戻って……」
「なあ、腹減らねえ?」
突然の話題の変換に戸惑うが、これ以上鳴戸に話す気は無いと分かりしぶしぶ頷くと額に一つ、口づけが落とされる。
「そんなツラは止めて、シャワー浴びてめし行こうぜ。ここのホテルのステーキは美味いぞー!」
「シャワーは一緒ですか?」
するともう一つ、額にキスが落とされ、にかっと目の前の顔が満面に笑む。
「一緒だ。明日の朝まで、うんとワガママに付き合ってやるよ。だから、笑え龍宝。お前には笑顔が足りねえ。笑顔は大事だぞ、笑顔は」
「親分が傍にいてくれたら、ずっと笑顔でいられますよ」
龍宝のその言葉を、鳴戸はスルーしてしまい龍宝の身体を抱きかかえる形でベッドから共に離れる。結局は、明日の朝までの夢というわけだ。
落ち込む龍宝だが、それでもまだ時間はある。短い時間だが、精一杯楽しんで笑顔で別れよう、そう心に決めたのだった。
シャワーは一緒と龍宝が願った通り、鳴戸はいやな顔一つせずに付き合ってくれそれは楽しい時間を過ごした。
互いの身体を洗い合い、時に縺れ合うようにして抱き合ってキスを何度もした。名残り惜しむよう、積極的に鳴戸の唇を奪い、そして奪われつつ髪を洗い身体を洗う。
一晩だけという確固たる約束があるのなら、その時間の鳴戸のすべては龍宝のものだ。これで別れるのなら、目一杯甘えて過ごそう。そう思って、浴室でもよく抱きつきキスをせがんでは笑い合った。
龍宝は滅多に笑顔を見せない。だが、今だけは笑っていようと思った。一生分笑い尽して、そして鳴戸を送り出す。それが最善に思えた。もうこれっきりならば、笑って時を過ごしたい。
抱き合っては笑い、キスしては笑みを浮かべ肌を触れ合わせてまた笑う。
鳴戸の後ろの髪は以前と違いばっさりと切ってあって、時の流れを感じさせるが気にせずに据え置きのシャンプーでマッサージするように洗うと、今度は鳴戸が龍宝の髪を洗ってくれる。
「お前、髪伸びたなあ。切らねえの?」
「美容院は狙われやすいですし、自分で切ってます。……そんなに長いですか?」
「でも、さらっさらしてて気持ちイイな。アタマちっちゃい」
わしっと片手で頭を掴まれ、笑ってしまう龍宝だ。
「昔からそれよく言われました。そんなに小さいですかね」
「スタイルいいもんなー、お前。背筋がすっと伸びててさ、姿勢いいし、やっぱモテるだろ」
「姿勢がいいのは親分もでしょう? モテるだなんて、親分こそイタリアで女たくさん抱いているんでしょう? 知ってますよ」
「それを言うなって。でもなあ……海外へ出ても、お前ほどの美人に出会ったことは無いな。世界レベルでお前はきれいなんだって、外人の女抱くと思うぜ。やっぱ超ド級の美人だわ、お前は」
「や、止めてくださいよ。俺は男ですよ」
「男でも美人は美人だろ。お前はキレーでかわいくて、美人さんだからな。俺の自慢の秘蔵っ子だ」
その言葉に、頭をかしかしとシャンプーを交えて擦られる気持ちよさに身を任せながら、龍宝は笑みを浮かべる。
「その秘蔵っ子を捨てたのは一体、誰でしょうね」
皮肉にも聞こえるその言葉を鳴戸は黙って聞き流したようで、シャワーの湯が頭に当たる。
「流すぞー、眼ぇ瞑ってろ」
次は身体を洗おうと、鳴戸を誘導するとタイル敷きの床に座り、龍宝に向かい背を向けてくる。そこで見える背中に入った刺青に、この男が間違いなく鳴戸だと教えてくれる。懐かしい背だと思う。
この背を見て、龍宝は育ったのだ。鳴戸が大切に育ててくれた。思えば、二丁拳銃を勧めてくれたのも鳴戸だった。初めは一丁で戦っていたのだが、どうやらかなり筋が良かったらしく鳴戸の見立てで拳銃を二丁持って試し打ちしてみたらなんともこちらの方がしっくりくるということで、龍宝の二丁拳銃時代が始まった。
そういうことも、鳴戸が始まりなのだ。極道としてのいろはも、すべて鳴戸から教わった。要は、今の龍宝を構成している殆どに鳴戸が関わっている。ひよこから始まり、東の龍宝と呼ばれるまで成長できたのはすべて、鳴戸のおかげなのだ。
感謝してもし切れない。大切で、大好きな人。無くしたくない人、それが龍宝の中の鳴戸の位置だ。
ずっと傍にいてくれるものだと思っていた。けれど、夢はもうすぐに覚める。そして、いつもの鳴戸組二代目としての日々がまた始まる。
仕方のないことだとは思いつつ、悲しみを隠せない龍宝だった。