肌の暴走

 しかし、笑い顔は崩れてしまい心の中にある淋しい気持ちが前面に出た表情が浮かんできてしまう。
「やっぱり、おやぶんは優しい」
「優しいのは、お前だけな」
 それはさすがに嘘だと思った。鳴戸は女にも、誰にでも分け隔てなく優しいことを龍宝は知っている。
 その言葉に少しの憂い顔を見せると、頬を両手で包み込まれくいっと顔を上に向けられる。
「なんだ、信じられねえか俺の言葉が」
「おやぶんは……誰にでも優しい人ですから。そういうところも好きなんです。……けど、嘘はいやです」
「んじゃあ、これでもお前は嘘だって言うのか?」
 どういう意味だろうと戸惑っていると、ずいっと鳴戸の顔が近づいてきて思わず目を閉じると唇にこの上なく優しい口づけが落とされ、あまりにソフトなその真綿のような感触にまたしても目尻を濡らしてしまう。
 唇から鳴戸の持つ熱や優しさが流れ込んでくるようだ。そして、龍宝の凝り固まった心さえも蕩かしてゆくような、そんな口づけに溺れているとそっと顔が離れてゆき、親指の腹で目尻をぎゅっと拭われる。
「お前は俺のこととなると、途端に泣き虫になるな。ま、そういうところもかわいいか。んで、分かったか? 俺の気持ち」
 こくんと大きく頷き、すんっと鼻を啜る。言葉が出てこない。一体、今の気持ちをどう表現したらいいのだろう。嬉しくて、少し悲しい。
「おやぶん……」
 頬を包んでいる手に、そっと手を重ね合わせてぎゅっと強く押しつけ顔を振ってすりすりと両手に擦り寄ると、またしても優しい口づけが降ってきて小さく唇を舐められる。
 熱い舌が唇を這うとそこだけ熱持つような不思議な感覚がすると思う。なんと表現したらいいのか分かりかねるが、とにかく気持ちがイイ。
 唇がゆっくりと離れてゆくと、熱も同時に引いてゆく。それがどうしても惜しくて、追いかけるように龍宝から口づけると、後頭部に鳴戸の手が回り誘うように口を開く。
 ぬるりと入り込んでくる熱い舌を招き入れ、積極的に舌と舌とを絡め合わせて恋しさを噛み締める。
 やはり、好きだと思う。この気持ちが触れている唇から伝わればいいのに、そういかないのが残念でならない。伝わったなら、鳴戸は一体なんと言うだろうか。
 特別になりたい。好きになってもらいたい。龍宝の持つ好きと、鳴戸の好きが同じならばこれ以上なく幸福になれるのに、そうは決してならない。
 今こうしてキスしてくれているのだって、ただの気紛れなのだ。それが分かっていながら、どうしていま触れている唇がとてつもなく愛おしく感じるのだろう。
 ふっと唇が離れてゆき、そっと眼を開けると至近距離に鳴戸の精悍で男らしく整った顔つきがあり、まだ頬を包んでいた手ですりすりと肌を擦るとそっと手が取られ降ろされてしまう。
 するとあっという間に手から熱が逃げてゆき、いつもの自分の体温に戻った。それが何故だか悲しく、手のひらを見つめる形で俯くと両肩に鳴戸の手が乗り下からじっと見つめられる。
 思わず顔を上げると、思い切り笑んだ鳴戸の顔が目の前にある。
「さて、仕切り直して本番、だな。お前も、湿気たツラしてるんじゃないよ。本番だぞ、本番。分かってるか?」
「ほんばん……」
 感傷に浸り過ぎて一瞬、何を言われたか分からなかったがすぐにセックスのことだと思い当たり、顔を真っ赤に染めてしまう龍宝だ。
 見られたくなくて両腕で顔を隠してしまうと、まるで宝箱を開くようにゆっくりそっと、腕が退かされてしまい、ベッドに置かれ頬を両手で包み込まれる。
「隠すなよ、かわいいツラしてんだからよ……勿体ねえ。ちゃんと見せろ。俺に見せてみろ」
「や……恥ずかしい顔してますから」
「きれいだって、お前は。いつだってキレーだから、安心しな。今もちゃんと、そそるキレーなツラしてっから」
「なんですか、そそるツラって。ふざけないでくださいよ……」
「俺は本気だぜ。キレーで、艶っぽくてブツが勃っちまって仕方ねえくらいそそるツラしてやがる」
 あまりに照れて何か言い返そうと口を開くと、ずいっと迫ってきた鳴戸に唇を塞がれてしまい、物申す言葉はすべて飲み込まれてしまう。
「ふっ……う、んっ、ンんっ……んっ」
 深く口づけられ、舌を丁寧に舐めしゃぶられて咥内をくまなく鳴戸の舌が這い回る。やはり、熱いと思う。口のナカが熱持ったようにのどが渇き、思い切って口を犯してくる鳴戸の舌を吸うと唾液が溢れてきて、のどを鳴らして飲み下すとふわっと鳴戸の味が鼻に抜ける。
 心地よくて、激しいキス。
 思わず鳴戸の肩に手を置いてしがみつくと、徐に唇が離れてゆきそのまま首元に顔が埋められる。
「あー……いいにおい。すんげえ、いいにおいする……」
「えと、汗くさくないですか? くさいのはいやですよ」
「誰がくせえって言った。いいにおいって俺は言ったんだぜ。甘くって、そそるにおいだ。お前はにおいまでもかわいいんだな」
「だから、かわいくないんですって。……恥ずかしいです」
「そういうところが、かわいいんだろ。んなあ……みみ、しゃぶってもいいか」
「耳……だ、だめです。もっと清潔そうなところをっ……んっ! あぁっ!! やっ、おやぶんっ!」
 龍宝の制止も効かず、いきなり耳をしゃぶられて思わず素っ頓狂な声が出てしまう。さらに、首筋をべろべろと何度も舐められ、眠っていた官能が引き摺り出されてくるようだ。
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