永遠の宿る、キスをあなたと

 すると鳴戸も同じく上半身を起こし、そしてまるで包み込むように身体を抱いてくれる。
「泣くなって。泣かせたくて言ってるわけじゃねえんだから。でも、これだけは言っておく。もしお前が俺を裏切って他の男や女とホテルへ行って、それを俺が知った時は……ぶん殴って、拳銃で頭ブチ抜く。それくらいの覚悟で、浮気するならしろや。言っとくが、俺は本気だぜ。それくらい好かれてるって、分かってくれよいい加減」
「す、好かれてる……? あなたが、俺を……俺の、ことを、好いていると」
「さっきから言ってるじゃねえか、好きだって。愛してるって。お前だけだって。言葉にすると陳腐だけどよ、これでも本気なんだぜ。愛おしくてな、仕方ねえんだ。なのに、お前は勝手に難しいこと考えて離れていこうとしやがる。何が不満だ? 何がそんなに心細いんだ。言ってみろ、ちゃんと聞くから、言葉にしろ。でなきゃ何も分からねえ」
 すんっと鼻を啜り、龍宝からも腕を回して鳴戸の身体にしがみつくように抱きつく。
「あなたを、諦めたい。諦めて、思い出にしたいと思ったことがあります。鳴戸おやぶん、あなたにキスされる前に、そう思ったことが何度もありました。けれど、あなたがきっかけを作ったことであなたと付き合うことになって……幸せでした。けれど、俺は男で……そのことがひどく申し訳ないと同時に、自分が女になってしまったことがひどく悲しいというのも本心です」
「俺のこと、抱いてみる?」
 思ってもみなかったその言葉に、慌てて首を横に振る。
「ち、ちがっ! そういうことを言っているんじゃなくって!!」
「そういうことだろ、お前が言ってることって。抱きたいんだろ?」
「違います!! そうじゃ、なくて……いえ、そういうことなのかもしれません。けれど、今日改めて抱かれてみて思いました。俺が本当に望んでいたものの正体。それは、結局あなたの愛だったのかも、そう感じました。しこたま抱かれて気づくなんて、おかしな話ですけど、今日面と向かって愛してるって、俺のことが好きだって言ってくださったことで、つっかえていたものが取れた感覚がします」
 すると、背中をすっすっと撫でられ、ぎゅっぎゅっときつく抱かれる。
「もっと早く、言っておけばよかったな。上手くいかねえ。恋愛なんて、したことねえからなあ。商売女しか抱いてこなかったし。そっか、お前は言葉が欲しかったのか。いいぜ、いくらでも言ってやる。愛してるぜ、龍宝。お前のことが、俺は大好きだ。……ちゃんと、愛してる」
「おやぶんっ……!!」
 遂に涙腺が決壊し、肩を震わせて泣きに入ってしまう。
「俺、おれもあなたが好き。大好き、愛してるっ……!! 離さないでください。ずっと、抱いていて……おねがい」
「離さねえ。ぜってーに何があっても、離しゃしねえぞ。お前こそ、浮気したら分かってんだろうな。身体が疼く前に、俺が抱く。そんな暇なんて与えねえぞ。あと、あのおもちゃも没収だ。独りで発情されちゃたまらねえからな。それと、媚薬もだ。あんなつまんねえもんで遊ぼうとするんじゃねえ。なんの為に俺がいると思ってんだ」
「だって……ある人が言ったんです。俺は失ってしか気づけなかったものを手放してしまったのだと。だから、その橋渡しのためにあのおもちゃを買ってきただけで……本当は、あんなものじゃなくておやぶん、あなたのが欲しかった。ずっと否定してきたけど、正直に言います。俺は……男じゃなくて構わない。やっと、吹っ切れました。……あなたを好きになるというのはきっと、こういうことなんですね。本当に、取り落としたりしないで良かった……未だ、間に合った。それが、俺は嬉しい」
 すっと、涙が頬を滑り落ちる。
「もし取り落としたって、俺が拾いに行ってやるよ。そんで、お前の涙拭って抱きしめてやる。それが、俺の愛し方だ。お前はすぐ泣くからよ、俺のことになると。だから、もう何処かへ行こうとするな。俺の腕の中は、常にお前のために空けてあるんだからさ。淋しくなったら、来いよ、ここに。なっ?」
「ふっ……ううっうっ……おやぶん、おやぶん大好き。好き、好き。愛してる……」
「ほらまた泣くー。ホント、お前は俺のことになるとすぐにそうだもんな。ま、そういうとこもかわいいだけどさ。でも、そろそろ泣き止んでくれねえ? キスがしたい。お前と、たくさんキスがしてえ」
「ん……して。たくさん、キスしてください。俺も親分と、愛のあるキスがしたい。いっぱい、してください」
「龍宝っ……!」
 さらにきつく抱かれる身体。骨が軋みそうだ。
 痛いくらいの抱擁に酔っていると、徐に鳴戸が身体を離し両頬を手で包み込まれる。
「キレーな顔して……かわいいやつ。泣き顔もかわいいって反則だよな、まったく……これが惚れた弱みってやつかね」
 その言葉に返事はせず、そっと目を閉じると少しの間が開いた後、ふわっと唇に真綿の感触が拡がる。熱く、柔らかくそして湿っているそれは間違いなく、鳴戸の唇だ。
 龍宝も応えるよう、角度を変えて触れ合わせると応酬になり、しきりに唇を触れ合わせるだけの優しいキスが続く。
「おやぶん、あなたが……好き。大好きです。……愛してる」
 唇が触れ合う距離で吐息混じりに囁くと、目の前の鳴戸はそれは幸せそうに笑み、またしても口づけが降ってくる。
 何故か分かる。
 その唇はきっと、いつまでも龍宝を捉えたまま一生離れないのだと、確信の持てるそんな甘い口づけは永遠だ。
 永遠の宿る、キスをあなたと。

Fin.
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