秘め事の熱

 龍宝が溜まった時のみ、発動される密会セックス。これには訳があり、鳴戸の方からの申し出でいつでも抱けると思うと、いつだって欲しくなるだろうから龍宝が溜まってたまらなくなったら、その時に抱く。そう宣言され、それからは溜まると鳴戸に訴えて抱いてもらっている。
 その逢引きは、密やかに龍宝の愉しみになった。セックスも抵抗なく受け入れ、気持ち良くしてもらえる鳴戸のテクニックにも腰砕けになっているといった事実もあるが。
 女を抱いても満たされないものを、鳴戸は満たしてくれる。それは、龍宝が鳴戸に抱いている気持ちを少しでも楽にしてもらえる時間だということもある。
 抱かれていれば、鳴戸も自分のことをと思えるし、そう思えば身体も顕著に反応してくれる。
 この満足感は鳴戸でしか補えないものだ。寧ろ、鳴戸でなければ意味が無い。結局は、そういうことなのだ。
 鳴戸が言い出してくれなければ、きっと一生この願いは叶わなかっただろう。ずっと、片想いのままで鳴戸だけを見つめて生きていくのだろうと思っていたのが、今ではこうして疼く身体をベッドに沈め、鳴戸の到着を待っている自分がいる。
 ふとそこで、前もって準備しておかなければならないことがあったのに気づき、慌ててベッドを出て、脱ぎ散らかしてある服が置いてあるバスルームへ向かう。
 バスルームの中は蒸していてどことなくにおいが篭っている。そんな中、スラックスのポケットを探り目当てのものを取り出す。
 それは、以前鳴戸から手渡されたものでハンドクリームでも肌に優しいと銘打ってあるもので、男同士だとどうしても女のように濡れはしないのでこういうものが必要になる。
 そのことを初めて抱かれた時、申し訳なさそうに龍宝が「女じゃないので……濡れません」そうやって言い出したのが始まりでそれ以来、鳴戸はこれを使って抱いてくれるようになった。
 以前までは鳴戸が持ち歩いていたが、龍宝が欲しいと言ったらなんとも言えない表情を浮かべ、渡してくれた曰くつきの品だ。
 龍宝にしてみると、鳴戸の手を煩わせたくないといった思いからだったが、鳴戸はそれに関してあまり気にしている風ではなく、そうやって自分の手で龍宝の身体を開いてくことに悦びを感じていたと気づいたのは最近のことだ。
 だとはいえ、わざわざ男の尻を進んでいじりたい男がいるとも思えない。そういった思いが強く、クリームを手渡されて以来、自分でクリームを尻に塗ることだけはしておこうと用意を怠らないようにしているのだが、今日は失敗だ。
 慌ててバスタオルを取り去り、尻にクリームを塗りつける。相変わらず、なんとも言えなく気色の悪い感覚だ。ぬるぬるしていて冷たく、どうにも慣れないがこれも鳴戸に抱かれるためなので仕方のないこと。
 そうやって割り切り、もう一度バスタオルを腰に巻きつけベッドへ向かったところで徐に部屋の扉がノックされ、返事をする間もなく鳴戸が入ってきて酔っているのか足元が覚束ない。
 こんな鳴戸も珍しい。酒豪で有名な鳴戸が、こんな風に酔うことなど無いと言っていいほど覚えがない。
「おやぶん? 大丈夫ですか?」
「ちーっと、飲み過ぎたかな」
 そう言って、がたんと大きな音を立てて鳴戸がその場に尻もちをついたのが分かったのですぐに向かい、背に手を当てると素早い動きで首に手が回りぐいっと引き寄せられあっという間に唇を奪われてしまう。
 さすがに何とも手際がいい。これが、慣れと経験値の違いか。
 驚いて目を見開くと、そこにはしっかりと欲情を浮かべ暗闇の中で光る鳴戸の眼と出会う。ドキッと、心臓が大きく鳴った気がした。
 何故だろうか、今日の鳴戸は少しいつもと違うような気がするのだ。
 それでも目の前にいるのは鳴戸に間違いはなく、ぎゅっと目を瞑ると角度を変えて触れるだけの口づけが何度も成される。
 柔らかくて湿ったその感触と味はまさしく鳴戸の味で、どこかホッとすると思う。これだけは代わらない、鳴戸だけのモノ。
「ん、ん、んんっ……ふっ、は、あっ……んむ」
 思わず啼いてしまうと、のど奥で鳴戸が笑ったのが分かった。だが、それは分かっただけに終わり舌先で口をノックされ、そろっと開けるとぬるりと鳴戸の舌が咥内へと入り込んでくる。
 かなり熱い舌だ。いつ交わしても熱いが、今日は特に温度が高く思える。興奮でもしているのだろうか。しかし、龍宝はいつもの龍宝で鳴戸がそこまで興奮するほどの何かがあるとも思えないが、とにかく熱い。口の中が火傷してしまいそうだ。
 そのまま舌を絡め取られると、濃い酒の味がして必死で鼻呼吸していると龍宝の方まで酒が鼻に抜けていくような、きついアルコール臭がしていてどれだけ飲んだのか、はたまた飲む必要があったのか分からないがこれも初めてのことだ。
 龍宝を抱く日は、酒もほどほどにまるで味わうようにして抱かれるのが常だが、まるでアルコールに頼って無理やり口づけているような印象を受ける。
 そのことに気づき、腕で突っ張って離れようとするがそのまま床に引き倒されてしまい、唇がその瞬間だけ離れるがすぐに乗っかかってきて唇を塞がれる。
 一体、何をそんなに焦っているのか。その表現が一番ぴったりくるような、そんな様子に戸惑いが隠せない龍宝だ。
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