陽光の剥片をそっと拾い上げる

 何かが足りない。
 確かに、先ほどの自慰は気持ちよかったけれど、龍宝が欲しいのは指では無いのだ。それではなく、もっと太くて硬く、肉の弾力が気持ちイイ、ペニスが欲しい。
 奥深くを満たしてくれる、アレが欲しい。
 けれど、鳴戸はもういない。だとしたら、一体この疼きは誰が満たしてくれるというのか。コンドームに何か硬いものを包んでアナルに挿れることも考えたが、首を振る。
 もっと確実に快感を得たい。ペニスによる快感が得たい。
 堕ちてしまったものだ。ここまで自分が女になりたいとは思わなかった。ここ連日で見ている夢も然り、まさかペニス無しでは満足できない身体になってしまったとは涙も出て来やしない。
 ザーメンとカウパー液、そして潮塗れの身体を暫くベッドに横たえていたが、ふとある店の存在を思い出した。
 ペニスが欲しいのであれば、買えばいい。アダルトグッズにそういったものは無いのだろうか。男の中の女を満たしてくれるような、そういったディルドやバイブ的なもの。
 道具には頼りたくなかったが、もはや背に腹は代えられない。アレが欲しい。太いモノをナカに挿れたい。挿れてイキたい。
 我慢が、できない。
 イキすぎて気怠い身体をゆっくりと起こし全裸のままでバスルームへと向かう。その際、シーツを剥がして洗濯機に入れて乾燥までのコースで回し、その足で浴室へと入り熱いシャワーを頭から思い切り浴びる。
 とうとう、来るところまで来てしまった。というより、思い当たったという方が正解か。自分が何を欲しているのかが明確に分かってしまうと、悲しみよりも虚無感の方が大きい。
 女になった。そう強く感じる。
 自分の身体を変えたのは他でもない、鳴戸だが恨みは不思議と感じなかった。ただ、ああもう戻ることはできないと諦めただけで、それが鳴戸の所為だろうが結局は弱かった自分に非がある。
 汗にまみれた身体をシャンプーとボディーソープで清め、しっかり眼が覚めるまで湯に当たり浴室を出てバスタオルで身体を拭き、水滴を取ってからスーツに着替える。
 もはや、戻れないならば進むしかない。
 下着とスラックス、そしてカッターシャツに背広を羽織って懐に拳銃を忍ばせ、財布を尻ポケットへと入れて部屋を出る。
 特に腹が減ったとも思わなかったので昼過ぎの時刻だったが、気にせずにマンションの階段を降りそして車に乗り込む。
 自分のシマ内だと今から買うものに対して些か、抵抗があるので自分のことを知らないシマの中での買い物となる。
 ひたすら車を飛ばし、微かな記憶を引っ張り出しながらそのまま走って駅近くまで行き、そしてパーキングエリアまで行って車を置き、そこからは徒歩だ。
 初夏の風が心地いい。陽も柔らかく照っており、悩み事が無ければ最高なのだがそうはいかないのが世の常か。
 スタスタと歩を進め、目当ての店の辺りをうろつくこと約十分。見つけたことはいいが、どんな顔をして入っていいか分からず、店から離れたところで暫く逡巡していたが、結局身体が満たされないことには何も始まらないし、それこそ終わらせることだってできない。
 勇気を振り絞り、店の扉を開ける。
 すると、店内は思っていたよりも広く、商品が所狭しと並んでいる。どれだけの種類があるのだろうか。
 唖然としていると、奥から蝶ネクタイに粋に口ひげを生やした店長と思われる男性が顔を出す。
「いらっしゃいませー。あら、キレーな顔のおにーさんね。どうぞ、ごゆっくり見ていってらして。ここはアタシが管理する宝の山だから。んふ、エッチなものなら何でも揃ってるわよ」
 少しだけ頭を下げ、その足をバイブの方へと向ける。細いものから極太なもの。形も様々だが、龍宝が欲しいのはこれではない。
 ちらっと、後ろを見るとそこには『アナルに直撃。Gスポットにもビンビンくる!』といったネーミングが並ぶコーナーがあり、本当の目当てはそこだがどうしても近づけずにひたすらバイブを見ながらちらちらとアナル開発グッズの方を見る。
 あれを挿れれば満足できるのだろうか。
 期待でのどがなる。
 すると、男性が徐に声をかけてきた。
「おにーさん、アナル開発にご興味あり?」
「ち、違う! その……女に使ったらどうかなって……」
「いいのよ、気兼ねしなくても。この店はっていうか、ここはね、人の欲望が剥き出しになっても憚らない場所なの。だから、おにーさんがアナルに興味があるって言ってもアタシはなにも驚かないし、嫌悪もしないわ。ここはそういうところよ。んで? 本当の目的はどちらかしら?」
 男性の言葉に、龍宝は下を向いて手を握りしめ、搾り出すように言葉を発する。
「……アレを使うと、オンナに、ならないか?」
「え? あなた女になりたいの? ってことはネコかしら」
「俺は動物じゃない! ちがっ……そうじゃ、なくて……もう、どうしていいか分からなくて……」
 ひどく顔を歪める龍宝をなんと思ったのか、男性はじっと龍宝を見つめた後、こんな提案をしてきた。
「少し、訳アリのようね。おにーさん、アタシのタイプだから何でもお話、聞いてあげちゃう。こういうことって言い辛いわよね。でも、他人だから言えることもあるわよ。奥へ入って。コーヒーでも淹れるわ。ゆっくりでいいから、アタシに話してみない?」
 その言葉に、いつもなら警戒心丸出しにして拒否するところだが、今はなんにでも縋りたかった。言葉もなくこくんと頷くと、男性が笑んで手招きしてくるので誘われるがまま店の奥へと入ると、そこはきれいに片付けられている事務所のような場所で、ソファセットまで用意されている。
 促されたのでソファへと腰掛けると、男性がコーヒーを淹れ始めたのでそのまま身体を硬くして待つ。
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