たゆみなく共鳴する

 生きる目的が、できた。
 ハッキリと、確信できる。何もかもが手から零れ落ちたものだとばかり思っていたが、最後に残ったもの。そのひとかけらは鳴戸の愛だ。欲しくて欲しくて、けれど絶対に手に入らないものだと思っていたものが、今この手のひらに小さなダイヤモンドのように小さく輝き、龍宝に光を与えてくれる。
「おやぶん、俺……生きていても、いいんでしょうか。あなたがいる世界は、光っていますか? いえ、愚問でしたね。あなたがいる世界はいつだって、輝いているのを忘れていました。ムショに入る前……俺はその光に誘われてあなたを好きになったんですから……あの輝いていた日々は、戻りますか……?」
 その言葉に、鳴戸はそっと龍宝の身体を解放し両手でびしょ濡れの頬を包み込んでくる。
「お前がそう思えればな。もう、こっからはお前自身の問題だ。俺は、言うことは言った。それでも死にたきゃ、勝手にしろ。ただ、お前が死んだら俺も死ぬ。それだけは変わらねえぞ。さあ、どうしたい? 俺は、お前の光だぜ。お前は自分で、光の命を捨てるのか。それが本当にできるか?」
 すりすりと親指の腹で頬を撫でられ、顔が近づいてきたと思ったら真綿の口づけが降ってきて、ますます涙は量を増して頬を流れる。
「生きて、いたい……。死にたくない……いやだ、おやぶんが死ぬなんて。そんなのっ」
「これでも、愛してるんだぜ。何度でも言ってやる。これしかお前を繋ぎ止められねえんだったら、口がたらこになるまで言ってやる。愛してる、好きだぜ、龍宝。お前が、俺は大好きだ。笑顔も、意地っ張りなところも、泣き顔も、セックスの最中の色っぽい顔も、何気なく照れて笑う顔も、俺はお前の全部を含めて、愛してるっつってんだ。これから先、俺ほどお前を愛しているヤツに出会えることは一生無いぜ。それくらい、お前を想ってる。愛してんだ」
 涙が止まらない。
 それは間違いなく、嬉し涙だ。あの鳴戸がここまで言ってくれている。自分の命を繋ぎ止めるために、愛の言葉を惜しげもなく囁いてくれる。
 手に入らないと思っていたものが、いま目の前にある。
「俺も、おやぶんが好き……大好き。愛してるんです。……俺は、生きていてもいいんでしょうか。たくさん過ちを繰り返して、なにも無くなってしまった俺ですが……それでも、許されるものでしょうか」
 鳴戸の両手は龍宝の涙でびしょ濡れで、その手に擦り寄り甘えた仕草で顔を手に押し付ける。
「未だ、死ねない。おやぶん、あなたと生きていたい。それが赦されるのであれば、俺はあなたと一生を添い遂げたい。いえ、添い遂げてみせる。死ぬときは一緒、ですよね……? そうだと言って」
「ああ、一緒だ。俺たちはずっと、一生ずっと一緒に居る。死ぬ時も生きる時も同じだ。そうだ、その調子だ龍宝。上って来い。俺のいるところまで、上るんだ。頑張れ! 諦めるんじゃねえぞ。もっと生きたいって思え。それが、すべての原動力になる。もっと頑張れ! 生きるって言え。俺と生きると、そう言え!」
 ぶわっと瞳に涙が湧き、歯を食いしばって大きく頷く。零れた涙は鳴戸の手を伝い、すべてベッドの上に落ちて、染みを作ってゆく。
「……生きる。おやぶんと、生きる。これから先の戦いでも、あなたを護って生きる。生き延びてみせる。それができるかどうかはべつにして、おやぶん、あなたと生きていたい。……やっと……手に入ったような気がします。あなたの気持ちや想い……漸く、見せてくれたんですね。嬉しい……すごく、嬉しいです。これで俺は生きていける。あなたが一生一緒と言うのならきっと、そうなのでしょうね。だったら、俺はあなたと生きる。生きていく」
 すると、鳴戸の眼が潤みすうっと頬を伝って涙が零れ落ちてゆく。
「泣かないで……泣かないでください、親分がそんな涙を流してはいけない。泣くのは俺の役目、そうでしょう」
「いや、嬉しくてさ。今ここでお前に死なれたら俺は、何もかも無くしちまう。失っちまうことになる。お前が生きると言ってくれて、心底ホッとしてんだ。なあ、龍宝。いつ命が無くなっても仕方ねえ商売をしてるけどよ、俺の夢……一緒に叶えてくれねえ? 俺が経験したこと見たこと、お前にも味わって欲しいんだよな。一緒に、叶えていかねえか。お前が居れば、俺はなんでもいいとは言わねえけどでも、それに近いもんがある。夢に乗っかって、戦い抜こうぜ。最期の最期まで、二人で」
「……はいっ。親分の夢ならば、俺も一緒に叶えたい。俺も、親分が見たものを見てみたい。そうですね、戦いましょうか。一生一緒に、最期まであなたと戦います」
「ん、それでいい。それでいいんだ。たったそれだけでも、生きているに値すると俺は思うぜ。自分で死ぬのなんていつでもできる。だったら、極道らしく最期まで意地汚く生きて戦って死のうぜ。俺とお前なら、それができると思ってる。お前はどうだ」
 大きく何度も頷き、ひしっと鳴戸に抱きつき嗚咽を漏らす。
「あなたと生きる。……生きる、死なない。絶対に死なない。例え死んでも、それならば意味ある死ですよね。だったら、戦って戦ってそしてあなたの夢を叶えたい」
「龍宝っ……!!」
 二人はがっしりと抱き合い、暫く無言で涙を零した。
 一度溢れ出た涙はなかなか止まってくれず、長い間だったと思う。漸く涙が止まる頃にはすっかりと疲れており、二人は同時にベッドに倒れ込み抱き合いながら目を閉じた。 
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