刹那的に零れる

 散々、泣いた所為か些か頭の中が疲れている気がする。ぼんやりする思考の中、身体を擦り上げてゆき、枕に頭を置いている鳴戸の正面に顔を置き、じっとその精悍で男らしい顔を見つめる。
 すると自然と心が凪いでゆくから不思議なものだ。
 やっと、帰って来てくれた。今度はもう、きっと何処にも行かないだろう。行くとしたら、一緒に地獄か天国だ。
 それでも、この時間だけは龍宝とそして鳴戸のモノだ。二人だけの、二人のための時間。
 甘えるように鳴戸の顔の鼻先まで顔を寄せて擦り寄ると、どうやら眠っていたらしい「ん……」といった寝ぼけた声が耳に届く。
「どうやら、泣き止んだみてえだな。つい寝ちまった。……どうだ、少しは落ち着いたか?」
「はい……ご迷惑を、おかけしてしまったみたいで……すみません」
「いいってことよ。それより、俺が目の前にいてお前は何もしねえのかな? 俺は、いろいろしてえけどなー。あんなことやこんなこと。それまたあーんなやらしいこととか」
「おやぶんはっ! いつもそれなんですから……。でも、キスはしたいです。たくさん、キスしたい。だって、どれくらいぶりですか。二人だけでこうしてホテルにしけこむなんて。俺だって、親分に惚れている男として、いろんなことがしたいですよ? あーんなことや、こーんなこと」
 すると鳴戸は嬉しそうに笑み、後頭部に手が回る。
「言うようになったじゃないの。ん? しかし、美人になったなあお前は。凄みが増したな。大人になったってことかな」
「知りませんよ……それより、することがあるでしょう? 親分こそ、久しぶりに無防備な俺を目の前にして何もしないで放っておくんですか?」
「言うねえ……覚悟しとけって、言いたいところだがちっと気になるな」
 何がと問う前に、両頬に流れた涙を鳴戸は頬を手で包み込みながら払ってくれる。その優しさにもまた、涙を浮かせてしまう。
「……俺たちがキスするのって、約十年ぶり、くらいでしょうか。もっときれいな俺を親分には見せたかった」
「なに言ってやがんだい。お前はいつだって、キレーでかわいいぜ。……でも、なんか顔色が悪くねえか? いや、悪くねえどころじゃなく唇だって白いし、肌もオマエ元々白いけどこんな白くなかったよな。体調、悪ぃのか。熱あるか?」
「少し……眠れない日々が続いていたもので。その所為でしょう。それより、俺は折角親分といるんですからもっとたくさんの、イイコトがしたいです。俺たちに明日が無いのであれば、もう……あなたとぐちゃぐちゃになって、イってしまいたい」
「眼ぇ、瞑りな」
「それは、いやです。折角じっと見ることができるのに……それが赦されるのに目を閉じるなんて、そんな勿体ないことはできません。親分は、変わりありませんね……相変わらずカッコよくて素敵で、変わったのは、俺だけ」
 そう言って目を伏せると、瞼にキスが落とされそのまま近づいてくる鳴戸の顔をじっと見つめる。
 唇が触れ合うその寸前で急に鳴戸が止まり、疑問符を浮かべると一瞬後に素早く唇を奪われ、両頬を手で包み込まれて、ぎゅっと強く唇が龍宝のソレに押し付けられる。
「んっ……んンッ! ん、んうっ……!」
 角度を変え、何度も口づけられる。その激しさは刑務所へ入る前に交わした時と同じように情熱的で、そして刹那的だった。
 龍宝も夢中になって鳴戸と同じく何度も口づけては離れ、そしてまた口づけることを繰り返し、互いの熱を高め合い、そして盛り上げてゆく。
 実に久方ぶりの他人との口づけに、すっかりと酔ってしまう龍宝だ。そういえば、鳴戸は熱かった。身体も、唇もそして身体の中心で息づく鳴戸自身も。何もかもが熱くて、その熱さにいつも翻弄されては愛され、精を吐き出していたことを思い出す。
 懐かし過ぎて、忘れていた。それが、徐々に思い出から現実に変わると、待っていたのは燃えるような情欲だった。
 早く鳴戸と繋がりたい。そして思い切り同時に精を吐き出し、満足したいといった欲が頭を擡げてくる。
 その点だけは昔と変わりがなく、思わず涙ぐんでしまう。
 もう二度と、逢うことは無いと思っていたのに。
 思わず感極まってしまい、龍宝も鳴戸の首に腕を回しさらなる口づけを強請ると、唇を小さく何度も舐められ、薄っすらと口を開くとするりっと咥内に鳴戸の舌が入り込み、早速ナカを大きく舐めてくる。その舌の動きに応えるよう、龍宝からも舌を伸ばして鳴戸の舌と濃密に絡ませ合い、溢れ出る唾液を飲み下すとふわっと鳴戸の味が鼻から抜け、なんとも心地いい。
 すると今度は鳴戸が龍宝の舌に吸い付いてきてぢゅぢゅっと音を立てて唾液が吸い取られ、鳴戸ののどがごぐっと大きく鳴る音がした。
 そのまま、舌の食み合いにまで発展し、互いの舌を柔らかく噛んでは舐めてまた噛んでといった繰り返しを続け、ふとした拍子に口づけが解ける。
「は、はあっはあっはあっ、は、は、おや、ぶん……ん、はあっ」
 肩で息をして、至近距離にある鳴戸の顔をじっと見つめると、鳴戸も見つめ返してきて見つめ合いになり、頬を包んでいる手が動き親指でさらさらと肌を撫でられる。
「相変わらず、キレーだなお前は。でも、なんか老けたか? ああいや違うな。そっか、大人になったな。俺たちが最後にこうして抱き合ってからもう、十年以上経つか。なら、大人になっても不思議じゃねえな。色気がムンムンになった」
 その言葉に、龍宝は微笑を浮かべ鳴戸の手に甘えるように擦り寄る。
「親分からは、やっぱりかわいいと思われたいですね。昔は、よくそう言ってくれた。……懐かしい、思い出です」
 するとこつんと額に鳴戸の額が当たり、少々むくれた顔をした鳴戸が唇を尖らせている。
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