あなたと超えた夜のこと
だが、その後が問題だった。というのも、最後に一度龍宝を痛いくらいに強く抱きしめたと思ったら、くるりと身体を反転させて背を向けてしまったのだ。鳴戸の背には刺青があり、まるで龍宝を睨みつけているように感じる。
仕方なく、龍宝も鳴戸に背を向けて横になっていると、身体が気になりだした。シャワーでも浴びたいと、徐にベッドから離れようとしたところでやはり、昨日と同じく引き戻されてしまい情熱的な愛撫が始まる。
また、身体に熱が灯ってしまう。
だが龍宝は必死に身を捩り、鳴戸の腕の中から抜け出そうとする。
「ま、待って……待ってください! また、するんですか……? というより、なぜ……」
「おかしなことを聞くじゃねえか。抱きたいから抱く。男なら当たり前だろ?」
そう言うなり、首元に顔を突っ込まれ何度も唇を落としてくる。
「あ、あっ……な、んで、親分っ……! どうしてっ……」
疑問は、喘ぎ声となって消えていった。
情交の熱が冷めてゆく。
龍宝は鳴戸に抱きつき、必死で息を整える。
「はあっはあっはあっはあっ、はっはあ……イ、イった……はあ、親分のがナカにっ、熱いいっ……」
対面座位のこの体勢は鳴戸に抱きつけるから好きだ。抱かれながらイク快感は、何者にも勝る。
鳴戸の息も相当上がっており、龍宝を抱きしめながら息を整えている様子。
「はあっ……おやぶん……」
少し身体を離し、至近距離でじっと鳴戸を見つめる。鳴戸も見つめ返してきて、どちらからともなく顔を寄せ合い、唇を触れ合わせる。
相変わらず、甘くて熱くそして香ばしい味のするキスだ。
セックスの後の口づけは、激しいか優しいかどちらかの二択なのがいつも不思議に思う点だ。それを鳴戸に問う気はないが、何故だろうと思うことは確かだ。
唇を何度も吸われ角度を変えて舌を少しずつ入れてくる。その口づけに応えるよう、龍宝からも鳴戸の舌を舐め返し、優しい口づけを愉しむ。こういったキスはやはり、情交の余韻にピッタリだと思う。
「んは、はあ、おやぶん、はあっ……」
「龍宝……」
鳴戸の両手が動き、背から顔に移動し両頬を手で包まれる。そして、また優しく口づけられる。
愛されていると勘違いしてしまいそうなほどの柔らかで温かなキスに、すっかり溺れてしまう龍宝だ。
永遠にこの時が続けばいい。
そういう訳にいかないことは承知で願ってしまう。
暫く二人は抱き合いを続けていたが、どちらからともなく身体を離し、そしてまた鳴戸は龍宝に背を向けてしまう。
その広い背をじっと見つめた後、徐に起き上がった龍宝は今度こそバスルームへ向かおうとベッドを出るが、腕を引かれベッドへ逆戻りさせられてしまう。
「っ親分!! いい加減に」
「龍宝」
真摯に名を呼ばれ、つい黙ってしまうと真剣な表情を浮かべた鳴戸に、無理やり仰向けにされ身体を重ねられてしまう。
「おやぶん……?」
その顔は首元に埋められ、大きな溜息を鳴戸は吐いた。熱い吐息が肩に降りかかる。
「こんなはずじゃなかったら、どんなはずなんだろうな。俺はどんなつもりで、お前を……」
「なにを、言って……んっ!」
いきなり首を大きく舐め上げられ、思わず背筋を震わせてしまう。
「抱くぞ、いいな」
「好きになさってください。どうせ、逃げても追ってくるのは分かってます」
「それだけ分かりゃ充分だ」
龍宝は両手を持ち上げて鳴戸の後頭部と、背に回し引き寄せる。これから始まる、情交のことを考えるだけで身体が熱くなってくる。
「きてください……親分。俺は、どこへも逃げません」
その龍宝の言葉を聞くなり、鳴戸は苦し気で悲しそうな表情を浮かべた。どんな意味があってその様な顔をするのかは分からないが、手は既に龍宝の肌を縦横無尽に這い回っている。
寂寥感溢れる表情を止めて欲しくて、龍宝は鳴戸の頬を両手で包みすりすりと手で撫で擦る。
「セックスの最中に、浮かべる表情ではないですね。逃げませんよ、俺は。だからそんな顔は止めて……きて、ください。いつものように、抱いて……」
「お前は、イイコちゃんだなあ……。そうやって許されるたび、なんか俺は……」
言葉は途中で途切れ、その唇は龍宝の肌に何度も触れてくる。龍宝もこれ以上、追及することは止めて、情熱的な愛撫に身を任せるのだった。
そして三度目のセックスの後。疲れて眠り込んでしまった龍宝を包むように、鳴戸が身体を抱いており、ぐっすり眠っている様子だ。
裸の体温が心地いい。素肌に鳴戸の熱が伝わって正直、熱いくらいだ。だが、その熱も愛おしい。じっと寝顔を眺めた後、視線を外すとカーテンの隙間からは僅かながら光が漏れ出ていて、今が朝だということを知らせてくれる。
いま鳴戸が起きれば、またセックスに持ち込まれるのだろうか。試してみたい気はあれど、身体もだるく、三度にも渡る情交で身体が若干、悲鳴を上げていることも確かだ。
そっと腕の中から抜け出た龍宝は、床に散った服を拾い集めそして身に着ける。ベッドの上を見ると鳴戸は未だ眠っている様子で、龍宝はその寝顔を眼に入れ踵を返して部屋を後にする。
どんな顔をして鳴戸を見ればいいのか、未だによく分からないのだ。後ろ髪引かれる思いでホテルを出る。
朝日は眩しく、龍宝は目を眇めて空を見上げた。