串に刺さったプリプリの鶏肉を頬張りながらホークスは大袈裟に肩を揺らした。
「あんた本当に男見る目ないですね。そんな鈍感な奴やめたほうが良い」
「こんな悩んでるのに笑って言わないでよ」
「ハハッだって、面白すぎるでしょ。2年も片想いして気付いてもらえないなんて」
4本目の焼き鳥を咀嚼して飲み込んだホークスがビールに手を伸ばす。その鈍感な奴があんたなんだよ! とは口が裂けても言えないので、代わりにホークスのビールを奪い取って飲み干してやった。ざまあみろ!
ビールを掴み残ったホークスの手が数秒空を彷徨った後、何故か私の手の甲の上に重ねられた。そういう所が、わたしの勘違いや恋心を加速させているのをこの男は知らない。
彼の長い指がコールボタンを押して、やって来た店員さんに生ビールの中を2つ注文する。女の手に触れておきながら余裕そうなホークスを睨み付けて、私よりも数倍大きな手を離そうとするが強く握られてうまくいかない。
「離してよ」
空いている手でホークスの手の甲を摘むと小さな悲鳴が聞こえたけど、その手すらミルフィーユみたいに重ねられた。なにこれ。
「なまえさんは欲張りさんですね」
「わたしのどこが! 欲張りなの」
「俺だけじゃ不満ですか?」
照明の下でキラキラと光るホークスの瞳が、優しく細められて私を見る。
「俺の片想いは2年以上ですよ」
ミルフィーユが1枚剥がれて、私の頬に添えられる。まるで恋人を見つめるようなその瞳から、目が離せない。
「それって、どういう意味?」
「俺はなまえさんに2年以上好意を寄せてるってコトですよ」
やっと絞り出した言葉にホークスがにたりと笑い、愛しむように頬をなぞる。ホークスのカサついた指先から熱が伝染して顔が、熱い。
「え、そ、それは嘘! 嘘だよ、だってそんな鈍感な奴やめたほうがいいって」
「なまえさんが可愛いからからかっただけです」
悪びれた様子もなくビールを煽ったホークスは「普通片想いしてる相手に恋愛の相談しますか? まあそこが好きなんですけどね〜」と言って再び焼き鳥を食べ始める。こいつ、性格が悪すぎだろ。
「ほーん、随分な自信ですけど、違うって言ったらどうするの?」
「なまえさんの好きな人が俺じゃないって?」
「そーそー。そうだよ、ホークスじゃないかも」
まあホークスなんだけどね。ははは、ざまあみさらせ!という気持ちを込めて舌を出すと一瞬でそれをグッと引っ張られて激痛が走る。痛い、めっっちゃいたい。ちぎれる。
「ひはい!ひはいよ!ははひて!」
「何言いよーかわからん」
ドSかこの男!悪態をつこうにも舌を摘まれて上手く話せない。離せと念を込めて睨め付けても効果はなくて、ホークスは無表情のままだ。
「俺はこげんなまえさんの事が好きなんに」
「……」
「疑うとー?」
こういう時だけ方言を使ってくるのあざとい、あざとすぎる。意地悪をするつもりが意地悪をされているわたし間抜けすぎて泣きそう。
ホークスの舌を掴む指の力が弱まって、ゆるゆると首を振る。降参します。
「じゃあ俺ん事好き?」
正直にこくこく頷くがこの男はまだ足りないらしく、「ちゃんと言葉にして」と黄金の瞳をぎらぎら燃やしている。どっちが欲張りさんなんだか。
「ふひへふ」
「誰んことがー?」
「ほーふふのほとはふひへふ」
今ので聞き取れたのか、凄いな。
さっきまでの無表情が嘘のように向日葵の如くきらきらと咲き誇る笑顔に目を細めた。可愛い。これが惚れた弱みなのかと実感する。
未だ空気に晒される舌から愈々生ぬるい唾液が舌を伝って垂れてくるのを感じる。恥ずかしいし不愉快極まりないが、ホークスはにやにやと厭な笑顔を浮かべそれを目で追っている。
「あいらしか〜!キスしたっちゃよか?」
前言撤回。可愛くなんかなかった。完全に捕食前の動物のような、ギラギラと光る黄金の瞳が目の前に現れてぺろり、垂れる唾液を舐めとって一瞬で私の唇を奪っていった。
なにが「キスしたっちゃよか?」だ。どうせ、返事なんか聞かないくせに。
21'0706