※轟の片思い
みょうじと爆豪の距離が異様に近い。それに気付いたのは最近のことで、俺がみょうじの事が好きだと気付いたのも、それと同時だった。
「爆豪聞いてよ」
「ンだよ」
面倒くさそうに返事をする割に、少しだけ屈んでみょうじに身体を寄せる爆豪を見て胸の奥が騒ついた。目を逸らしたいのに何故か逸らせない。
みょうじは屈んだ爆豪の耳元で小声で喋っているのか、俺の方までは聞こえてこない。爆豪は「しょーもねぇ」と言いながらどこか穏やかな声音で、顔で。
「何見てんだ半分野郎!」
俺の視線に気付いたのか、続けて爆豪がみょうじの肩を抱いて「こりゃァ俺ンだ」と中指を立てた。満更でもなさそうなみょうじの顔を見て、腹の中から沸き出る殺意にも似たそれが俺を包み込んだ。あぁ、なんか、なんだこれ。
「悪りぃ、見入ってた」
「ハァ?!」
ワナワナ震える爆豪の身体からみょうじが離れて、俺を見る。それだけで心が落ち着いた。
風で靡く長い髪が綺麗で、また目を奪われる。
「関係ないけどさ、爆豪ってクラスメイトの名前ちゃんと覚えてるの?」
「関係なさすぎんだろ。そんくらい覚えてるわ」
「じゃあ目の前の面のいい彼の名前は?」
「......轟だろ」
「あんら〜!本当に覚えてた!偉いね〜爆豪くん」
頭撫でてあげようか!ヘラりと笑うみょうじに盛大に舌打ちして「テメェ、絶対殺す」と凄むが、やはり個性も手も出さずに大人しく撫でられている爆豪に、羨ましいと本音が転がり落ちたが聞こえていないらしい。良かった。
「ごめんね轟。うちのが吠えちゃって。じゃね〜」
「吠えてねーわ燃やすぞチビ」
「あら〜大人しくしましょうね〜」
2人同時に踵を返し、騒がしく去っていく。
「すげえ牽制だな〜?あんな事しなくても誰も手出せねぇよ」
いつから居たのか上鳴がケタケタ笑い俺の肩を叩く。それから「なあ?」と同意を求めるように上げた顔が一瞬で引き攣り、後ずさっていく。
「轟お前......まあその、頑張れ!」
右往左往する視線が定まらないまま離れていく上鳴に、俺は何一つ返せないままその場に突っ立ていた。
21,0715