テラテラと光るシルクのベッドの上で、何度も思っては呑み込んできた。
「行かないで」
無意識に出た言葉に慌てて口を閉じる。プロヒーローの恋人として絶対に言ってはいけない言葉だと理解していてもやはり嫌、というより怖いのだ。
それでも勝己は怒らずに優しく眦を細めて「留守番、一人でできンだろ」と額に口付けてあかい目でわたしを捉えた。この目が好きだ。
優しくて温かい、いつも守ってくれる目。
「行ってくる」
次は唇に、少しだけかさついたそれが一瞬だけ重なって彼が玄関を出た。本当はもっとして欲しかったしいつだって私だけを見ていてほしい。いつからこんなに我儘になったんだろうか。
1人ぼっちの玄関で、最後に見た彼の背中を思い出していた。 私は知っていたはずだ。私だけのヒーローじゃない、彼はみんなのヒーローだという事を。
それがだんだん嫌になって来て、いっそ私が敵になってしまえば彼は私だけを見て、構ってくれるのだろうか。
できもしない馬鹿みたいな事を考えては、彼の帰りを待つのだ。今日も、明日も、明後日も。