ひろあか | ナノ



「俺の事絶対に忘れないで、ずっと好きでいてください」

黄金の瞳を瞼の裏に隠して、力なく私を抱きしめたホークスが震えた声でそう言った。風のように飄々とした彼はどこにもいない。逞しい両腕に包まれているのに心細いと思った。
何もかもがいつもと違うホークスが再び「忘れないで、好きでいて。お願いだから」と両腕に力を込める。緊張や不安で張り付く喉からはヒュッと息が漏れるだけで、彼の欲しがる言葉は出せそうにない。

「体冷えてきましたね。寝ましょっか」

解かれた腕が今度は腰に回って、私をベッドまで誘導する。心臓が張り裂けそうに高鳴る。寝たらきっと、ホークスはどこが遠いところへ行ってしまう。それなのに役立たずな喉は砂漠みたいに乾いて動かない。
彼は今どんな顔をしているのだろう。私みたいに息を殺して泣いているのだろうか。ばれないように、優しい彼が心配しないように強引につばを飲み込んで、やっと出た言葉は「うん」だった。

ホークスは再び私を抱き締めて二つの身体がベッドに沈んでいく。上下する立派なのどぼとけを見つめながら、同じ匂いのする柔らかい髪の毛を撫でる。私から離れていかないでと願いながら、それが伝わればいいのにと思いながら。

「なまえさんに撫でられるの好きです」
「私もホークスの髪撫でるの好きだよ」
「髪だけ?」
「ホークスの事ももちろん好きだよ」
「ハハッよかった…嬉しいです」

本当はずっとこうしていたい。ベッドで微睡みながらお互いに触れ合って、あぁ、今幸せだなあと噛み締めていたい。ずっと、永遠に。
開け放たれた窓から入り込む風は冷たくて、秋特有の乾いた匂いが部屋中をいっぱいにする。落ち葉のさざめく音を聞きながら不安を落ち着かせる、
ホークスの心は、私が気付かないうちに乾いていたのだろうか。落ち葉のように、この風のように。頬に押し付けられた硬い胸板の奥から、どくどくと激しく音を立てる心臓が何を意味するのか、私にはわからない。あなたも緊張しているの?
結局臆病な私は何も聞けず、朝日を感じて瞼を開けるころにホークスの温もりがないベッドで一人泣くのだろう。なんて惨めで情けないんだ。どうして、そんな人間をホークスは一度でも愛してくれたんだろう。それすら知るのが怖い。
このままだときっと泣いて優しい彼を困らせてしまう。せめて最後くらいは面倒くさくない女でいたいと力いっぱいホークスを抱きしめて、忘れないようにたくさん彼の匂いを吸い込む。たとえ人が溢れる街中ですれ違ってもあぁ、これはあの人の匂いだと思い出せるように。そして瞳を閉じる。

「愛してるよホークス。おやすみなさい」
「……おやすみなまえさん」

返されない愛してるにまた泣きそうになるが唇を噛んで我慢する。言えずに飲み込んだ私のことずっと忘れないでねが心で反響して消えていく。言えなかった言葉がたくさんある。その事をこの先彼の活躍を見ながら一生後悔するのだろう。それでもいい。ただ強く瞳を瞑って何も考えずに眠りたい。
ホークスは私が眠ったと思ったのだろう、頬に口付けて割れ物を触るみたいに髪をなでる。くすぐったくて身じろぎしそうになるのを耐えて狸寝入りを続けるとぽつり、生暖かい液体と言葉を私におとした。

「〜〜〜〜〜〜愛してます」

窓を叩く落ち葉の音でかき消されるほど小さな声だった。それなのに、言葉の最後だけははっきりと鼓膜にこびりついてじんわり熱を持つ。どうして、寝ているときにしか言えないの、どうして―――どうして貴方が泣いてるの。
その涙の理由を教えてほしくて目を開けた時にはすでに、傍にあったはずの温もりは消えていた。


開け放たれた窓から入り込む風は冷たくて、落ち葉のさざめく音や部屋中をいっぱいにする乾いた匂いに包まれる。窓からホークスの赤い羽根がゆらりとベッドに舞い落ちる。
数えきれない程愛し合って、じゃれ合って、ベッドから落ちそうな私を何度も抱きしめてくれたセミダブルのベッドは一人だと広くて、二人だと狭かった。私はその狭い空間で啓悟の温もりを感じるのが好きだった。
鼻孔に残るホークスの陽だまりみたいな暖かな匂いが私を包み込んで、消えていく。落ちて来た羽根を拾って抱いてみてもその寂しさは変わらない。

「俺の事絶対に忘れないで、ずっと好きでいてください」

何度も再生されるそれに、ああ、これはホークスが残した呪いなんだと思った。

あなたの残した呪い
あなたの残した呪い
21'0624




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