とーきょーまんじ | ナノ


なまえちゃんは先の事を話すと、無垢できらきらとした瞳から真っ黒で底の見えない海の様な瞳にかわる。

「誕生日なにが欲しい?」

そう言われてオレはここぞとばかりにお願いした。なまえちゃんが好きな甘ったるい猫撫で声を出して、逃がさないように手を握んで。

「なげーこと欲しいもんがあんだけどさ、中々手に入らなくてよ」
「ふぅ〜ん? 高すぎなきゃ何でもいいよ。なあに?」
「なまえちゃんが欲しい」

緊張はしなかった。けど、無意識に掴んだ手に力が入ったようでなまえちゃんが一瞬眉を寄せたから、慌てて弱めた。ちらりと盗み見た手は白から徐々に血色を取り戻していてほっとする。

「なまえちゃんとずっといたい。なまえちゃんの人生をオレにくれよ」

今度はちゃんと、握った手に意識を向けて言うとやっぱり、なまえちゃんは苦しそうに眉間を寄せて虚な、真っ暗な目になる。それで身体を硬めて、ぐぅっと押し黙る。
なにがそんなに嫌なのか、オレには分からない。

「それはちょっと」
「なんで? オレ、誕生日なのに?」
「だって、ずっとって、ずっとだよ?」
「うん。そう言ってるケド?」
「修二くんは分かってない。分かってないよ」

ふん。と鼻を鳴らしたなまえちゃんがするりと手を解いてオレから離れてベッドに傾れ込む。離れていくならもっと強く握れば良かったと思った。
それから、ころんと一回転して俯せになると、布団に顔を押し当ててくぐもった声で言う。

「いつか嫌になる日が来るかもしれないじゃん。そしたら、どうするの? 今だからずっとなんて、気安く言えるんだよ」

馬鹿じゃねえのと思って、オレは笑った。なまえちゃんは不愉快そうに顔を上げて唇を尖らせる。なにその可愛い顔。

「何笑ってるの」

拗ねたように言うなまえちゃんが腕を伸ばして枕を掴み、ぽいっとオレに投げ付けてくるが所詮はなまえちゃんの力。猫パンチ並みのヘボさだ。

「しゅーじくん、なに、ほんと」
「いや、ふっ、あははは」

だって、だってだ。オレがなまえちゃんを嫌になる日なんか絶滅した恐竜が復活するのと同じくらい有り得ないから、笑ってしまうのも仕方ないだろ。ずっとはずっとだ。オレのずっとはそれこそ、死んでも一緒っていう意味だし、なまえちゃんこそ分かってるんだろうか。
それを言った所でなまえちゃんは信じてくれないだろうけど。どうせ”未来の事は分からない。今はそうでも、分かんないじゃん!“とでも言うんだろ。うわ、めっちゃ言いそう。

「もう、なに、笑ってないでよ」
「誓うぜ、オレ。なまえちゃんのことずっと好きだって」

指輪とか何もねーけど。 指で小さい輪っかを作ってなまえちゃんの前に差し出すと目ん玉をかっぴらいて口も開けてぱくぱくしている。餌を求める鯉のような間抜けさだ。

「どーする? 今から稀咲とか呼んで病める時もなんたらかんたらってやってもらうか?」
「えっあ、いいよ、やめて」
「じゃあ何したら信じてくれんの?」
「あ…ぅ、......そんな、そんなにずっといたいの? わたしと」

おずおずとベッドから身体を離して布団を全身に巻き付けたなまえちゃんは、唇をきゅっと結んでオレの返事を待っている。照れてるのかまるい頬っぺたは林檎みたいに赤らみ目は潤んでいて可愛い。今すぐ殺して、切り刻んで、一欠片も残さずに食ってやりたい。

なまえちゃんは分かっていない。オレがどんだけ愛していて、衝動を抑えているかも、何もかも分かっていない。

「いてーよずっと。オレが死んで地獄にいっても、隣になまえちゃんがいたら天国だと思えるくらい愛してんだから」
「……じ、地獄はやだぁ、勝手に道連れにしないでよ......」
「でも、オレがなまえちゃんからずっとを貰ったら、そーなんだよ」
「じゃあやっぱりずっとはあげれないじゃん」
「なまえちゃん、オレを地獄に1人ぼっちにさせんの?」
「それは......可哀想だけど......」

うわーんと泣いたふりをする。なまえちゃんは涙に弱いから、カワイソウだと思ってオレをぎゅうぎゅうに抱き締めて、頭を撫でて「仕方ないからずっと一緒にいてあげるよ」というんだ。 馬鹿で可愛いけど、チョロすぎてたまに心配になる。

「ふん、仕方ないから、ずっと一緒にいてあげる。修二くんが嫌って言っても、離れてあげないから」

ほらな。言質を取ればオレのもんだ。オレはオレの誕生日になまえちゃんの人生をもらった。道程はまだ長いけど、デカいダイヤモンドがついた指輪を買って、なまえちゃんが好きなラベンダーの花畑で跪いてプロポーズしてやるんだ。いつか、絶対。

「改めて、修二くん、産まれてくれてありがとね。大好きだよ、ずっと、ずっと好き。誕生日おめでとう」

まるで宝物でも見るような目付きで瞳を覗き込んで、柔くてあたたかい手のひらでオレの頬を撫でて瞼に唇を落とした。頬から、瞼から、なまえちゃんのぬくもりが傾れ込んでくる。あぁ、早く、二人だけの世界にいきたい。

「なまえちゃん、愛してるぜ。ずっと」

いつか、もしいつか、オレより先になまえちゃんが死んでしまったら、その小さな身体をバラバラに切り刻んで、一欠片も残さず食って、消化する前に死んでやる。オレの中でなまえちゃんが混ざり合って本当の意味で一心同体になった頃に、2人で地獄へいくんだ。
だって、ずっとって、そういう意味だろ?

誕生日おめでとう半間くん





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