とーきょーまんじ | ナノ


竜胆くんの大きな手のひらが私の顔を包み込んで、それで目をまっすぐ、あかい熱を孕んで口を開いた。キスしてもいいか、って。聞くんだ、聞くよね。だってキスするときは言ってって言ったのはわたしだもん。

「キスしてほしい」

わたしもたぶん、竜胆くんと同じように瞳にあかい熱を孕んでる。竜胆くんはゆっくり顔を近付けて、何度も啄むようにキスをする。瞳の奥のあかい炎がゆらゆら揺れて、私だけを写している。わたしは竜胆くんとキスするときに目を閉じないで、開いたまま唇を重ねる。じっと見て逸らさないでどんなあなたも見ていたい。前にそう言ったら、竜胆くんは変な顔をしたまま「俺をどうしたいんだよ」と言った。未だにその返事の意味は分からないけど、わたしは竜胆くんを……どうしたいんだろう?
ゆっくり離れていく大きな身体に、もう少しキスしてほしかったなと思った。

「なあ、好き?おれのこと」
「えー?大好きだよ。わたしの好きが足りてない?」
「あー、いや、足りてる」

けどもっと欲しいだけ。ちいさくちいさく呟いて落ちていくその言葉はしっかりわたしに届いて、可愛いなと思った。竜胆くんは面倒見が良くて優しくて、世話焼きさんだ。そしてあまり我儘を言わない。だからたまにこうやってちいさくちいさく、ギリギ聞こえるくらいの音で欲を出してくる彼のことが大好きだ。そんな小さく言わなくても、どんな我儘でも竜胆くんの我儘なら聞くのにね?どうしてそんなに不安そうな顔で言うの?

「うーん、どうしよう」
「なにが?」
「わたしの愛と時間と身体、選ばせてあげる。どれがほしい?」

竜胆くんは一瞬固まって、それからううんと真剣に考えだしたから、わたしは笑ってしまった。ばかだなあ本当に。ふへへと笑うわたしに竜胆くんが拗ねた口調で何だよと言った。その顔も好きだよ。

「竜胆くんってば、ばかだなあ、全部って言えばいいのに。全部あげるよ、というか本当は全部あげたつもりだったんだけどなあ」

そう言うとまた一瞬固まって、クシャクシャになった顔で私を抱き寄せた。温かくて、爽やかな海みたいな匂いに包まれる。この匂いもすき、温かい腕の中も、竜胆くんのことも。
竜胆くんは私の頭上に頭をのせて、いつかと同じ声音で「俺をどうしたいんだよ」と言った。どうしたい、どうしたいんだろう。あ、分かった。

「竜胆くん、竜胆くん」

数回名前を呼んだらなんだよと上から声が降ってくるから、ぎゅっと抱きしめた。そしたら倍の力でぎゅってされて、骨が軋んだ気がする。そんな強くしなくても。

「わたし、竜胆くんをドロドロに甘やかしたい」
「……は?」
「蘭さんにもわたしにも、甘えられてばっかで甘えベタな竜胆くんを、わたしが世界で一番甘やかしたい」
「あー、もうまじで、まじでなんなのお前」
「竜胆くんのかわいい彼女のなまえちゃんです」
「それは間違いねえけどさ、はあー」

そうしたら、諦めたみたいに大きな溜息と「俺をどうしたいんだよ」が聞こえてきて、「たくさん愛して可愛がって、我儘な竜胆くんにしたい」そう言ったらまた溜息が落ちてきてキスしていいかって聞くから、もう聞かなくてもすきにしていいよってわたしからキスした。竜胆くん、頑張ってわたしくらい我儘になってね。そうしたら、今よりずっと、大きな愛でまたドロドロにして、世界で一番幸せにするからね。

21'0730







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