とーきょーまんじ | ナノ


あと一回、もう一回、これで最後、何度もそう繰り返して、私の顔中にキスをおとす。いつもこうなら可愛いのに、わたしが出かけるときだけしてくるから蘭ちゃんは狡い。

「ねえもう行かないと」

わたしの言葉にわざとらしくしゅんと眉毛を下げて、じゃあこれで最後なと、またあと一回、もう一回、そう言って繰り返すからわたしは無理やり蘭ちゃんを引き剥がそうとする。いくら可愛いといっても蘭ちゃんはばかでかい男の人で、それに力もあるので簡単に剥がれてくれない。むしろ腰に長い腕を巻き付けて「愛しの蘭ちゃんを置いて行くのかよ〜」などと宣っている。せっかく綺麗にアイロンを掛けたスカートかにシワが寄ってきた。
もう、いい加減にして!仕事なんだよ!と言えばうえーんと泣いたふりをする。ふりだって知ってるよ、わたしは騙されないからね!

「もう本当に、遅れちゃうから離して!」
「なまえは蘭ちゃんの事が嫌なのか〜?」
「こうやって邪魔してくる蘭ちゃんは、嫌いだね!」
「……は?まじで言ってんの?なあ、おい」

一気に気温も声音も低く低く下がるから、ぶるりと背筋が粟立った。下からぎろりと深い夜みたいな、きれいな蘭ちゃんの瞳がわたしを睨めつけて、腰に回った腕にギュッと力が加わる。怖いよ、そんなふうに怒らないで。

「蘭ちゃん、あんまり困らせないでよ。そうやって、蘭ちゃんがわたしに甘えるたびに行きたくなくなっちゃうから!」

正直今喧嘩してる場合じゃないのだ。わたしはあと15分以内にはここを出なければ、いけないのだから。接待なんて元々行きたくないのにこうやってちゅちゅちゅって何度もキスされたら、このまま蘭ちゃんと過ごしたくて堪らなくなってしまう。それは困る。

「は〜もう蘭ちゃんおこだかんな〜」
「……かわいい」
「可愛い蘭ちゃんに離してほしい?」
「そうやって聞いてくる所狡いよ、本当に」

大きく溜息をついて腕を持ち上げると今度こそあっさり剥がれてそのまま蘭ちゃんは頬杖をついてわたしを見上げる。凪いだ目で。

「早く帰って来いよぉ〜。じゃねえと俺寂しくて死んでるかもなぁ」

けらけらけら、からからから。絶対と言っていいほど有り得ない事なのでわたしは鼻で笑って、ようやく寝室から抜け出した。
蘭ちゃんは多分、わたしが今日帰ってこなくても死なないし普通に生きているし、次の日になって帰ってきたわたしに楽しかったか〜?とへらへら聞いてくるに違いない。そう思うとむかついてきたな。本当に朝帰りでもしてやろうか。なんてくだらなさすぎることを考えて玄関でヒールに足を突っ込んでいた、ら。背後からぬるっと現れた蘭ちゃんが耳元でぼそり。

「お前が早く帰ってこねぇと蘭ちゃん寂しくて会社は勿論社員全員消しちゃうかもなァ〜?いい子ちゃんにして帰ってこいよ」

前言撤回。蘭ちゃんは意外と重いらしい。
わたしは今日もいい子にこの家に帰ってきますので、だからなにも潰さないで消さないでね、蘭ちゃん

21‘0820







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