- ナノ -

ボイス

「おめでとう」

耳に響いた四季の声が頬に妙な熱を持たせる。かあ、と。何でか熱くなる顔を携帯を握る右手とは別の左手で扇ぎながらもなんとか口を開く。

「今朝、も聞いただろ」
「ああ、電話したしな」

今朝の出勤間際、震えた携帯を耳に当てた時に言われた言葉を思い出しながらもそう聞けば。それを肯定する四季の笑い声が耳に届く。一日に二回、誕生日だからといってこの歳になってまで騒ぐわけでもねえし四季だって暇じゃねえはずだ。そんな中電話をして来た理由を聞けば相変わらず四季はクスクスと笑いながらも訳を教えてくれた。

「生まれてきてくれてありがとな」
「……は」

思わず洩れた吐息は仕方ねえと思う。生まれたことに対する礼なんか言われたこともねえし、第一に四季が俺にそれを言う理由も分からねえ。いくら誕生日だからって、俺に与えすぎなんだよ馬鹿野郎。

「静雄の誕生日に、一番最初と一番最後におめでとうを言いたかった」

夜分に悪いな、と。あとに続いた謝罪に緩く首を振る。携帯越しなんだから四季に見えるはずもねえのに。

「……なあ」
「ん?」
「なんでお前は、そんなに色々してくれんだ」

なんとか絞り出したその疑問にまた四季はクスクスと笑う。まだ内緒、その言葉を最後に切られた携帯を握りしめて枕に顔を埋めて。次に四季に会った時にどんな顔をすれば良いのかを必死に考えた午前0時11分。


ボイス


(ツーツー、と無機質な音を聞いて)
(たった今聞いたばかりの#名前2#の声をもう聞きたくなった)
(理由なんか知らねえけど)
‐End‐
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20120128.