- ナノ -

救いようが無かったのは、俺

ふと、見上げた夜空には星に紛れて真ん丸な月が輝いていた。はあ、と洩れた感嘆の吐息は冬の空気の中溶けていくのが分かる。隣では燐君が寒い、寒いと肩を震わしているものだから、大丈夫、と声をかけてみれば立ち止った俺の手を引いてコンビニ寄ろうぜ、と。鼻の頭を赤くして言われたその言葉に頬が緩む。まだ暫くは一緒に居れる、小さく呟いたそれは燐君にも聞こえていたようで。おう、寒いのは確かだけどよーでもお前と一緒に居れば一人で居るよりかは全然あったけえよな。にへらと笑って言われた言葉に俺も笑顔を浮かべた。


ん、と渡された肉まん半分。お返し、とあんまんを渡すと俺の選んだこしあんまんがお気に召したらしく、俺もこしあんのが好きだ、と。好み似てんだろーな、返された言葉は俺の胸に暖かさを感じさせた。燐君と好みが一緒で嬉しいよ、俺も嬉しいぜー。何の他愛も無い会話をただ繰り返す、その雰囲気が冬の寒さを忘れさせるほどに暖かさをくれて。なんか幸せだね、と。白い息と共に自然と洩れた言葉は燐君の耳にも届いたらしい。

「なんか、こういうふうに誰かと一緒に帰るとかしたことなかったから、俺は今すっげえ幸せだ。ありがとな、お前は俺にいっぱい初めてをくれるからさ」

見てるこっちがありがとう、と。そう言いたくなるくらい幸せそうに笑う燐君を抱き締めたくなって仕方なくなった。ねえ燐君。呼びかけると同時にぎゅう、とその身体を抱き寄せる。マフラーに顔を埋めて、互いの隙間が無くなるほどに腕に力を込めてぎゅうぎゅうに抱き締めれば。

「ほらまた、初めてをくれたじゃねえか」

小さく呟かれたその言葉に何故か鼻の奥がつん、と痛むのが分かった。


救いようが無かったのは、俺


(燐君、俺を喜ばす天才でしょ)
(ならお前も、だろ)
(ほらまたそうやって)
(良いんじゃね、二人して幸せっつうことで)
‐End‐
青祓の夢企画【背徳の月と影の矛盾】へと提出させて頂きました。随分と遅くなり申し訳ありませんでした。最後になりますが主催の不眠蝉様、この度は参加させて下さいまして有り難うございました。20111117.