- ナノ -

安眠

「宮路、起きているか?」

襖越しにかけられた言葉に布団を引く手を止めて返事を返す。現れたのは斎藤で、その手には徳利と猪口があった。室内をざっと見渡した斎藤は寝る間際だったのか、と。その問いに浅く頷きをし、何か用なんだろうと逆に問いかければ一瞬の思案の後に出された言葉は晩酌の誘いだった。


「眠気が来ん故に、酒を呑もうと思った。邪魔をしたようならすまない」

互いに向き合って酒を酌み合う中言われた言葉に首を振って否定を示す。明日も早いんじゃないか、と聞けばあと数刻後には市中の見回り番だとの答え。流石に寝させるべきだろうと考えを巡らせた結果出た答えを半ば不安ながらも実行に移すことにする。

「なあ斎藤、先に謝っておく。だから怒るなよ」

言うと同時に斎藤の腕を引き、敷いてあった布団へと共に身体を沈める。俺はと言えば腕の中に斎藤を抱え、背中から抱き締める形で身体を落ち着かせた。ちなみに当の斎藤は状況が分からないのか先程から口を開くことがなかった。

「人の体温に包まれると段々と眠くなるだろうから、いきなりで悪かったな」

言い訳宜しく呟き腕の力を僅かに強めれば。あんたは何事も突飛過ぎる、とのお小言が返された。

「しかし、俺を思ってのこと故なのだろう……宮路、今夜は世話になる」

不意に返されたその言葉を最後に暫くの後に寝息が聞こえてきたのを確認し、俺も腕の中に収めた斎藤はそのままに目を閉じた。


安眠


(朝目が覚めた時に互いに何故か気恥ずかしくて目を逸らす羽目になるのはまた別の話)
‐End‐
20110928.