- ナノ -

※SSL
くしっ、とくしゃみの後に鼻を啜る音。それが数回繰り返されたりすればまあ流石に声をかけないわけにはいかず、風邪引いたのか、と聞けば僅かに鼻声で短く肯定の返事が寄越された。ここのところ気温の差が激しかったからなあ、と一人で納得している間も井吹のくしゃみは止むことはなかった。

「羽織るモンだとかねえのか?」
「あー……忘れた」

一瞬の思案の後に返された言葉に思わず溜め息が洩れる。そんな俺に何を勘違いしたのか顔を俯かせるもんだから、別に怒っちゃいねえよ、と軽く髪を櫛いてみた。ひく、と揺れた肩は寒さ故か、それともまた別の理由があるのか。そんな追求したところで行き止まる疑問に蓋をして着ていたカーディガンを井吹へと手渡す。

「は?」

随分と間抜け面で差し出したカーディガンと俺を交互に見やる井吹に自然と笑みが洩れる。着てろよ、と押し付ければまだ躊躇うのか受け取る素振りを見せなかった。仕方ねえな、とカーディガンを無理矢理に井吹の肩へと掛けて空いた片方で手を握りしめてやった。

「な、」
「人肌ってのは温けえからな。こんだけ暗くちゃ見えやしねえから」

適当に言い訳をすれば辺りを見渡した井吹は漸く緩く笑みを浮かべて見せた。わるい、ありがとな。小さく呟かれたそれに俺は手を握る力を更にぎゅう、と強くした。



(時々互いの肩が当たる感覚が心地好かった)
‐End‐
60900をお踏みになった綺瀬梼姫さんからのリクエストでした。ご本人様のみお持ち帰り可です。この度はキリ番報告、並びにキリリクを有り難うございました!
20110925.