- ナノ -

中秋の名月

※SSL
十五夜、だっけか。学校からの帰り道、スーツ姿に片手にはコンビニのビニール袋を引っ提げて夜空を仰げば真っ暗な空に一つ浮かんだ月が妙に神々しく見えた。俺の呟きに気付いて同じように空を見上げる新八に小さく笑いが洩れる。何笑ってやがる、なんて語尾を強める新八は言葉のわりには表情が穏やかなもんでまるで迫力は無かった。

「まさに月見、だな」

ビニール袋を軽く持ち上げて言えば中ではビールや酎ハイの缶がかつかつと音をたてていた。虫の音と俺達の会話しか響かない中にその音が加わって何だかとても居心地が良かった。

「まあ今日は中秋の名月だからよ、あながち間違っちゃいねえんじゃねえのか?」

にやりと笑って新八が掲げたもう一方のビニール袋にはこれまたコンビニで買い込んだツマミやら団子やらが入っているわけで。それもそうだ、と浅く頷きを返しつつ自宅への道をのんびりと歩いていた。

「なあ新八」
「んあ、どうしたってんだ改まって?」

互いに大分出来上がってきた頃に、たった今飲み終えたばかりの缶を握り潰してゴミ箱へと放る。呼び掛けたままに黙り込む俺を新八は訝しげに首を傾げて呆けていた。
俺はさ、来年の今頃もこうやってお前とバカやって酒飲んでたいわけよ。酔い任せに新八の肩に腕を回して無理矢理にでも距離を埋めれば。うお、だなんて色気もへったくれもない声を上げた新八は一テンポおいた後にへらりと笑って耳打ちした。その言葉が嬉しくて、勢い余って新八をぎゅうぎゅうに抱き締めたのはまた別の話。


中秋の名月


(ばーか、誰が離れてやるかっつの)
(酒の効果だけでは決してない頬の赤みをそのままに告げられたそれは俺の気持ちをいとも簡単に浮上させた)
‐End‐
20110912.