- ナノ -

一休み

なあ、龍。と、俺の僅かばかり後ろを歩く龍に問いかける。対して龍は、なんだよ、といった様子で緩く首を傾げて見せた。

「この後何も用事無えんだったら、少し付き合わねえ?」
「……宮路、飯の支度は良いのかよ」

龍の返しに頷きを一つ。このまま八木さん家に戻って夕餉を作るにはまだ些か早いし、何せよ久しぶりに連れ出せた龍をこのままただ荷物持ちとして帰らせるにはちっとばかし寂しいもんがある。そう思わねえ、と。わざとらしく小首を傾げて聞けば、肩を竦めそっぽを向きつつ小さく頷く龍に知らずと笑いが漏れた。


「あー、やっぱ餡にすりゃ良かったな」

呟くと同時に目につくのは龍が口に運ぶ餡の団子。ちなみに俺の手にはあと二粒が残ったみたらしがある。近場にあった茶屋に龍と共に腰掛けたのが今から少し前。注文の際に悩んだ挙げ句みたらしを選んだ自分を恨めしい気持ちを抱きつつ息を吐く、いやまあ確かにみたらしも美味いっちゃ美味いが、人間ってのはどうもそれを食いたくなっちまうと途端にそれしか考えられなくなるようで。

「……食う、か?」

小さく問われたそれに瞬きを数回。自分で言ってきたくせに龍は耳元を赤く染めてるもんだからその光景が妙に可愛らしくて頬が緩むのが分かった。

「……龍が良いっつうのなら」

試しにと焦らしてみれば。ちらりとこちらを伺った龍は何か決意付けるかの様に一つ頷いて見せると俺の口に団子を押し込んできた。

「ん、やっぱ美味い」

唇に残った餡を舐め取る。ついでとばかりに龍の口端に付いた餡を親指で拭いそれを舐めれば。

「な、……あ、あんたそれっ」

わたわたと取り乱す龍を見るのが妙に楽しかった、そんなある日の夕刻。


一休み


(りゅーう、顔真っ赤)
(う、うるさいっ)
(ふは、団子ありがとな)
(……別、に)
‐End‐
男主と井吹シリーズ│男主+井吹
設置/20110515〜20110717