- ナノ -

不意打ち

※SSL
井吹君、と屋上に着いていつものように呼び掛ければ何故か返される言葉は無くて。あれ可笑しいなあ、だとか考えつつも日陰となった給水タンクの後ろを覗き込めばそこには気持ち良さそうに寝息をたてる井吹君の姿。普段よりいくらか幼く見えるその寝顔にくつりと喉で笑って、その場へと腰を下ろして携帯のディスプレイを見る。まだ大分時間はあるから、そう結論付けて井吹君の身体を起こさないように僕の膝へと移動させる。頭を膝に乗せ、世間一般で膝枕と呼ばれる体勢に落ち着けてからの一息。その合間も井吹君は目を覚ますことなく安らかな寝息をたてていた。


「……ん」

そのまま暫くの間、井吹君の髪を梳くように撫でていればふと漏れる吐息。起きちゃったかなあと心配にもなったけれど、瞳が開かれることはなくて。安堵の息を溢せば、不意に髪を梳く腕が取られる。

「……んん、」

相変わらず寝息をたてたまま、僕の腕を捕らえて離さない井吹君に知らずと笑いが漏れた。見れば離されることのない僕の腕を抱き抱えるかのようにする井吹君に、次第と頬へと熱が上がるのを感じて。誰かが見ている筈もないのに周りを見渡して、そうして空いた片方の手で口元を覆った。


不意打ち


(どうしたって自惚れちゃうから)
(そんなに大切そうにしないでよ)
‐End‐
20110625.