- ナノ -

ならぶ

※SSL
今日はいつもよりも早く着いたから、と井吹君の居るだろう教室へと向かう。廊下にはちらほらと他の生徒が居て、僕の格好が不思議なのかこちらを遠巻きに見ているのが分かった。ちなみに今日はいつもこっちに来る際に着替えている高等部のスラックスじゃあなくて、僕が普段から通っている中等部の黒色のスラックスを履いている。上はワイシャツに同じく黒のブレザー、ネクタイは今日は気分が乗らないから外してきた。

「井吹くーん、ご飯一緒に食べない?」

前に聞いていた通りの教室に着いて後ろのドアから中を覗き込む。丁度四時間目が終わったのか中に居る生徒は皆それぞれに教科書を片付けたりお弁当を広げたりしているのが分かった。

「な、お前また来たのかよ……つうかその格好、今日は変装してないのか」

僕の姿を見た途端に指差して言う井吹君。そんな彼に笑みを浮かべたまま腕を取って屋上を目指した。


「……四季、てめえはまた懲りずに忍び込みやがって」

曲がり角を曲がった途端に捕まれる襟首。う、と息が詰まるのを感じつつ真横に居たその人へと視線を向ければ。

「……ん、なんだ今日は普通の制服じゃねえか」

酷いなあ土方さんは、と。反省はしていないからそれを隠すことなく伝えると、漸く僕の格好に気付いたのか首を傾げてそう聞かれた。そういえば井吹君からも聞かれてたっけ。まあ別に今日は近藤さんへのお使いで寄っただけだから変装の必要は無いかなって、そんな単純な理由なだけなんだけど。

「まあ良い……四季、てめえも総司の悪い面ばっかり真似してんじゃねえぞ」

はあ、と溜め息混じりに言われた言葉。はーい分かりましたあ、と。これまたまるっきり反省の色を混ぜずに返せば土方さんが眉間に皺を寄せて見せた、うわ、怖いなあ。

「酷いなあ土方さんは、僕に失礼じゃないそれって」

あれ、デジャヴュじゃないのこれって。何処からか現れた総司が土方さんに向けてそう言えば土方さんがより一層眉間の皺を深くしたのが分かった。

「お、沖田。あんたどっから来たんだよっ」

僕が無反応だった代わりなのか、井吹君が驚いた様子で声を上げる。うん、相変わらず良い反応。

「別に何処からだって良いじゃない、井吹君には関係ないんだし。そもそも今日は僕、四季に用があるんだよね」

そう言ってにやりと笑みを浮かべる総司に、ああそういえばネクタイの件をまだ謝ってなかったなあって、至極冷静に考えている自分が居た。


ならぶ


(……はあ、厄介なのが増えやがった)
(一人溢す土方さんは諦めたのか一つ溜め息を残してこの場を後にした)
‐End‐
20110618.