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どんかん

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そうこうしているうちに何処からか怒鳴り声が聞こえてきた。井吹君と顔を見合わせて声の聞こえた方に視線を向ければ、相変わらずな笑みを浮かべた総司が、その後ろからは鬼の形相で土方さんが、それぞれ全力失踪で追いかけっこをしていた。

「あれ、井吹君に四季じゃない。ふーん、まあ良いや。四季、あとで詳しく教えてね」

僕達を視界に捉えた総司はさっと僕の首元にあるネクタイを見た後に楽しそうな笑みを浮かべて、ひらりと後ろ手に手を振って走り去っていった。対する土方さんと言えば総司の後を追う際に気付いたのか僕の姿を見ると急停止して見せた。

「四季、またてめえは」

あれ、矛先チェンジかなって。雲行きが怪しくなるのを感じつつそっぽを向いてしらばっくれる。ああ、井吹君はそんな僕達を見てわたわたしているから少し可哀想だったり。

「土方さん、総司の奴は新八のとこに逃げ込んだみてえだぜ」

さてどうしようっかなあと考えていれば不意に頭へと手が置かれる。僕にこんなことをするのは、と見上げれば。やっぱり左之さんが爽やかな笑みと共に土方さんを引き受けてくれたようで。左之さんの言葉を聞いた土方さんは僕を一睨みした後に総司が消えていった方へと走って行った。

「ふは、ありがと左之さん。土方さんったら総司を怒るならそのまま矛先なんて変えないでくれれば良いのに」

肩を竦めてわざとらしく溜め息を吐けば。土方さんも大変だろうな、お前に総司だしな。とにやついた笑みで返された。

「あんた達、知り合いだったのか」

不意に呟かれた声に井吹君の方を見れば僕と左之さんを交互に指差して驚いている姿。

「ああ、四季の奴が面白え遊びをしてるって聞いてな。四季、忍び込んでばっかいねえであっち戻んなくて良いのか。部活、あるんだろ。ったく、ご丁寧に変装までして」
「今日はもう授業は無いからあと一時間後に部活があるだけだよ左之さん。あと忍び込むだなんて失礼だなあ、ちゃんと近藤さんには社会見学って断ってあるしね」

それとスラックスは夏服を引っ張り出したんだよ、と。にっこり笑顔を付け加えてブイサイン。対する左之さんはよくやるぜ、とまたも頭を撫でてきた。

「あ、ちなみにネクタイは昨日総司の部屋に入った時に拝借しちゃった」
「……ああ、だから総司の奴はネクタイしてなかったんだな。あいつ、斎藤にこってり絞られてたぞ」

そう言って悪戯げに笑う左之さん。へえ一君に怒られちゃったんだ総司、と。他人事で考えていれば不意にシャツの裾を引かれるのが分かった。

「な、忍び込むとか込まないとか……お前、この学校の生徒じゃないのか?」

そう言って僕の顔を覗き込む井吹君。別に隠してるつもりはなかったんだけどなあ、と前置きして訳を説明した。

「……中等部、って。俺はてっきり同い年かと……え、つまりお前はまだ中三ってことなのか?」

まさしく混乱してます、って表情で呟く井吹君。その問いに頷きを返せば口をぱくぱくとさせて何かを言いたげだった。

「……お前も、沖田みたいな奴だな。やっぱり友達ってのは性格が似るもんなのか」

暫くした後に立ち直ったのかそう漏らす井吹君と、その言葉に互いに顔を見合わせる僕と左之さん。そんな僕達に、何かまずいこと言ったか、とばかりにしきりに首を捻る井吹君という可笑しな光景が広がったある日の昼休み。


どんかん


(おい四季、お前言ってないのか?)
(……確かに僕は明確には言ってないけれど)
(それでも普通は、なあ)
(うん、気付くよね)
(井吹君が首を捻る間にそんな会話を繰り広げた)
‐End‐
20110617.