- ナノ -

こうかん

※SSL
僕の最近のお気に入りは前から話しに聞いていた井吹龍之介君。総司から聞いた話を元に学校内をフラついていて見付けた井吹君は初めこそ何だか分からないって顔つきだったけれど僕が差し出した手を振り払うことなく握り返してくれた。

「井吹君、今日はいつもの餡パンじゃないんだね」

四時間目が終わった後の昼休み、いつも通りに手早く着替えて一年生の廊下へと向かう。ちなみに今日はスラックスに加えて指定のネクタイも着けてみたり。この間井吹君にクラスを聞かれたから、一応念のため。

「……ああ、四季か。いや本当は餡パンが良かったんだけどな、今日に限って品切れていたみたいで……仕方なくクリームにした」

右手に下げられたビニール袋から覗いたクリームパンとしょんぼりって言葉が似合う程には肩を落とした井吹君。何だか本当、この人って犬みたいだなあって。前から聞いていた印象通りだと考えていたらふと鞄に入ったそれを思い出した。

「これ、僕が今朝買ったんだけど……井吹君のクリームパンが食べたくなっちゃったから交換してよ」

言うと同時に鞄から取り出した餡ドーナツを井吹君に握らせて僕は彼のビニール袋からクリームパンを取り出せば。状況が分からないのか握られた餡ドーナツと僕の持つクリームパンを交互に見ている井吹君。その様が妙に面白くて、やっぱり話しに聞くだけよりかもっと、井吹君のことが知りたくなった。



こうかん


(これっ、ありがと……な)
(中庭に行く道すがらにシャツの裾を掴まれてそう言われた)
(ふは、なあんかほんとに面白いよね井吹君って)
‐End‐
20110616.