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不思議な奴

※SSL
俺は最近妙な奴に付きまとわれている。いや付きまとうってのは少し語弊があるかもしれないが、まあとにかくそいつのことについて俺は名前くらいしか知らないのだからこう言っても強ち間違いでは無いと思うわけで。

「ねえねえ、君が井吹君だよね。僕四季って言うんだけど、僕と友達にならない?」

四季と知り合ったのは確か一週間程前。昼休みに人気の無い場所を求めて中庭で一人餡パンを食っていれば不意に顔を覗き込まれてそう言われた。俺が座っているのに対しそいつは屈んではいるが正確な身長だとかは分からない。おそらくこの学園の生徒だろうけど、ネクタイで学年を判別しようにも着崩されたシャツにそれは無かった。

「ねえ、聞いてるの?」

言われた言葉を飲み込んで、今現在の状況を理解しようとそいつの容姿から何かヒントになるものはないかと見詰めていれば拗ねたような声音で文句が漏らされた。

「なあに井吹君、さっきから黙っちゃってさ。僕に見惚れるのは良いけれど、返事を聞かせてはもらえないの?」

そう言った四季は人当たりの良さそうな笑みを浮かべて右手を差し出した。とりあえずこのままよりは良いだろうと餡パンを傍らに置いて立ち上がる。わざわざ握手だなんて律儀な奴だな、と。向き合って思ったことと言えばやっぱりこいつは俺より背が高かった。

「……なあ、お前ってそういえば何組なんだ。名字も知らないし、いい加減教えてくれても良いんじゃないのか」

ず、といちごオレを飲み干した後にそう口に出す。あれから一週間、昼休みになる度にふらりと現れる四季と俺はいつの間にか昼食を共にするようになっていた。

「へえ、そんなに僕のことが気になるの井吹君。でーも、秘密。人間一つや二つ秘密があった方がミステリアスで魅了的だと思わない?」

さも面白いかのように口端を吊り上げて笑う四季。そうこうしているうちに昼休みが終わるチャイムが鳴ったのが聞こえた。

「それじゃあ僕はもう行くよ、またね井吹君」

ご丁寧にウインク付けてまでの挨拶を残して中庭を後にする四季を追うように俺は残った餡パンを口に押し込んで校舎へと向かった。


不思議な奴


(またはぐらかされた)
(教室に戻って気付いたそれに机へと項垂れた)
‐End‐
20110615.