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アメとムチ

※SSL
ふあ、と漏れる欠伸が一つ。やべ、と思ったところで後の祭り。何がってそりゃあ斎藤先輩の目付きそのものだろうと。じっ、と俺を射殺さんばかりの視線に首は知らずとそれから逃れようとそっぽを向く。そんな俺を飽きずに睨み付ける斎藤先輩の目付きは恐ろしい。いやそもそも俺はたまたまあの場に居合わせただけだってのにどうしてこんな目に合わなきゃならないのか。

「書けたのか?」
「……あと少しっす」

視線はそのままに俺の手元にある作文用紙を指差す斎藤先輩。うん、声音が冷た過ぎて俺泣きそう。

「あ、の……沖田先輩はどうしてるんすか」

無言の空間に耐えきれずに口に出せば。斎藤先輩曰く、沖田先輩は先輩で土方先生にこってりと説教を食わされているようで――いやまああの人の場合は全く反省なんざしてないだろうけども。

「……宮路、あんたが先に言った通りに偶然総司と共に居たということは理解している」

ならどうして、口を突いて出かけた言葉はそのまま斎藤先輩の言葉にかき消される。つまりはまあ俺にも一割程度は悪い部分もあったのだろうと。いやまあ確かに指定のシャツは着てねえ、ピアスは開けてる、おまけにチャリ通のくせして耳にはヘッドフォン。あー、そりゃ怒られるわ。再度振り返ってみれば、なんだこれ俺も普通に悪いじゃん、と。それまでは偶然に沖田先輩が風紀指導で引っ掛かっていた脇をすり抜けて行った今朝の自分を恨んでいたけども。

「あー、すんません。俺が悪いっすね」

頭を下げた後に顔を上げれば、斎藤先輩は驚いた様子で瞬きを数回。素直な奴だなあんたは、と。それまでの視線からは打って変わったように瞳を細めて苦笑して見せた。


アメとムチ


(あんたも飲むだろう?)
(下校中の自販機でそう差し出されたコーヒーに)
(この人は飴と鞭の使い方が上手いなと、)
‐End‐
20110614.