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記憶

※SSL
近頃沖田の奴の様子が可笑しいと、俺に伝えてきたのは確か山崎だったか。その山崎曰く、沖田の様子を心配した雪村か藤堂かがそれを斎藤に伝え、その後に自分へと回ってきたのだという。それなら何故俺へとその旨を伝える必要があるのか。山崎にそれを聞いたところで、昔からあの人のお守りは宮路さんの役目でしたから、なんて返されるんだから堪ったもんじゃねえ。第一、俺はあいつのお守り役なんざ御免だしあいつもそれは同じだろうと容易に想像できるんだから。

「辛気臭え面してんな、あんたは」

昼休み後の5限目、一人保健室のベッドに横たわり俺の方を決して向こうとはしない沖田にそう声をかければ。君からは見えないでしょ、だなんて至極当然な言葉を返された。

「あんたが何を怖がってんだか知ったことじゃねえけどな、俺に世話かけんのは勘弁しろよ」

言うと同時に襟首を掴まれる。俺を睨み付ける沖田は普段の飄々としたそれじゃあなくて、妙に人間臭く感じられ俺は自然と口端が吊り上がるのを感じた。

「何が可笑しいの?」

目付きはそのままに、低い声音で呟かれるそれに喉が鳴る。

「あんたは今を生きてんだろうが、あの頃とはもう違えんだよ。医学だって、なんだって。あんたが不安に思う材料なんざ端からこの時代においちゃ無意味なんだよ」

襟首にある沖田の手を払い落とし言えば。しきりに瞬きを繰り返した後に沖田は途端に俯いて表情が伺えなくなった。もう良いだろうと、掴まれた襟を整え保健室を後にする。ドアを抜ける間際、沖田が何かを呟いた気がしたが生憎ながらそれが俺の耳へと届くことはなかった。


記憶


(あの時代、あいつの最後の表情を見た自分自身を激しく恨んだ)
(どうしたって奴には対等にいてほしかったのだろうと、)
(気付いた時は遅かったから)
‐End‐
20110530.