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幸せ酔い

※SSL
目を開けた先にあったものは昨夜目を閉じた際に見たものではなく、今現在自分を抱き締めている相手のシャツを縋るかのようにして掴む自分の手だった。僅かに空いた隙間から顔を覗かせ視線を上げれば四季が心地好い寝息をたてている姿があった。寝起き直後の思考回路ながらに昨夜のことを思い出せば。確か自分は先に潰れてしまった四季へと上着をかけたはず、といったところまでは記憶にあった。その後は不意に襲った眠気に逆らえず意識が落ちたのだろうと、ぼんやりと納得付けた後に再度現状へと土方は意識を戻したのだった。

「四季」

自分の掴むシャツへと意識を寄せた途端に頬へと熱が上がるのを感じる。熱を冷ますかのように首を緩く振り、そして不意に口をついて出た名前に土方自身がぴくりと小さく肩を跳ねさせた。起こしてしまったのかとじっと見詰めれば変わらず四季から零れる寝息に安堵の吐息を漏らす。随分と女々しいじゃないかと、意識が無いうちにしただろう行動に先程とは違った意味の吐息が漏れた直後。

「なに、一人で百面相してんの?」

意識がはっきりとしないのか、僅かに拙い言葉で問われた後にそれまであった隙間を埋めるかのように強く抱き締められる。瞬きを数度、かあっと顔へと集中する熱に瞳を閉じるしか逃げ場はなかった。

「いいから……と、しは傍にいろ、よ」

小さく囁かれた言葉と、直ぐ後に聞こえてきた寝息。それを聞いた直後、不意に瞼の重くなる感触に身を任せ土方は先程同様に今度は落ちかける意識のなか、確かに四季のシャツへと手を伸ばしたのだった。


幸せ酔い


(次に目が覚めた時にあったのは)
(自分を愛おしげに見詰める四季の姿だった)
‐End‐
20110528.