- ナノ -

じゅうじつ

※SSL
身じろきをした拍子に落ちたそれは先程まで歳が羽織っていた上着だった。辺りを見渡せばテレビは消され、部屋の照明も落とされ、室内には俺の呼吸音と隣で眠る歳の寝息だけが響いていた。一週間の職務を終え、自宅で歳と酒を飲んでいたことは覚えている。まさか自分よりも酒に弱いはずの歳を差し置いて潰れちまうなんざ俺は相当疲れていたのか。苦笑混じりの吐息を吐き出し、歳を見れば。縮こまるようにして腕を組み静かに寝息を漏らしていた。普段寄っている眉間の皺は無く、僅かに幼くなったその表情に小さく笑いが零れた。

「ばか、寒いんだったら俺なんかに寄越してんじゃねえよ」

言うと共に上着をかけ、歳を抱き抱えて寝室へと向かう。大の男を横抱きなんざ、なんてシュールな図だと。起きてる時には絶対にさせてもらえないだろうその体勢に再度笑いが漏れた。

「おやすみ、」

ベッドに歳を横たわせ、そして隣へと身体を落ち着かせる。冷えた分を暖められればと、歳を抱き寄せ腕の中に閉じ込めた。不意にシャツを掴まれる感触に視線を落とせば歳が無意識ながらに擦り寄ってきたのが分かり言い様のない幸福感に満たされたのを感じ、俺の瞼は徐々に重みを増した。


じゅうじつ


(幸せだ、と)
(意識が落ちる間際確かにそう思った)
‐End‐
20110527.