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※SSL
ほらよ歳、その言葉と共に市中で受け取った歳宛の恋文を放り投げる。それを受け取った歳はざっと目を通した後に直ぐに文机の引き出しへと仕舞うものだから、大して面白みのない対応につまらないだのなんだのと唇を尖らせた覚えがある。
「歳ー、」
車を車庫に入れた後にエンジンを切り、さてそれじゃあ思う存分飲むか、と車を降りる直前。不意にスーツの胸ポケットに忍ばせたそれの存在と、随分と昔にあった出来事を思い出し今まさに車を降りようとしている歳のスーツの裾を引っ張った。
「はあ、んな強く引っ張るんじゃねえよ。皺になっちまうだろうが」
眉間へと皺を寄せ返された言葉に、わり、と返し胸ポケットから取り出したそれを差し出した。
「今日ってあれなんだとよ、恋文の日。昼間生徒に聞いて、せっかくだから書いてみた」
手近にあったノートを1ページ分破って書いた簡素なそれはとても恋文と呼べるような可愛らしい外観はしていないわけで。いつだかのように直ぐに仕舞われちまうんだろうなあだとかなんとか考えてりゃ、不意に目の前へと差し出される物があった。
「まさかてめえと同じことを考えてるとは、な」
照れ隠しなのか、視線が合わないままに呟かれたその言葉に瞬きを数回。差し出されたそれは俺が渡した物と似たり寄ったりな形状をしていた。
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(5月23日)
(こいぶみ)
‐End‐
20110523.