- ナノ -

決壊

※SSL
ふるりと震えた肩に気付かないはずがなかった。それでも必死に俺のブレザーを掴む左手も、肩同様に震えてるものだから。何か悪いこと――倫理的な点からとかそういったものはこの際おいておいて――をしているみたいじゃないかと頭の中にいるもう一人の俺が言った。

「ん、」

一旦唇を離して呼吸を確保させる。見れば一は頬を上気させていて瞳には涙の膜が張っていた。そんなに無理させちまったのかと、目元を拭って頬へと手を這わせれば一瞬の躊躇い――だって一の瞳が揺れたから――の後に擦り寄られる。そのまま暫くの間一の頬の感触を味わっていればふと気付いたそれに自分はそこまで余裕が無かったのかと自嘲じみた笑いが零れる。

「ここ、見えちまうかも」

言いながらも先程そうしたように、今は赤い印のついた首筋へと舌を這わす。舌が這う感触にひくひくと身体を震わす一は凄く可愛らしい。その身体を抱き締めて、ぎゅうぎゅうに腕へと閉じ込めて、俺以外誰も見るなと視界を覆って、俺から離れないでと繋いでおけたら。そんなことは一つだって叶わないだろうし、一をそんな目に遭わせたいだなんて思わないけども。

「俺だけの、一で居て」

暗示をかけるように一の耳元で囁く俺をどうか許してはくれないだろうか。


決壊


(溢れてくるこの気持ちは)
(どうすれば、)
‐End‐
20110524.