- ナノ -

夜遊び

襖越しに横切った影に釣られて部屋を出る。見れば前方には井吹が居て、その後ろ姿から察するに誰かへの遣いなのだろうと予測付けこちらへと戻ってくるのを待った。暫くの後に引き返してきた井吹の姿を視界に留めれば自然と口の端がつり上がるのを感じた。

「何、井吹緊張してんのかよ」

言いつつ前に回した腕の力を強めれば。ぴくりと肩を跳ねさす井吹は図星なのか目の端を赤く染めて見せた。ちなみにいつも結い上げられている髪は結い紐を取って自由にした、それがまた普段とは違った雰囲気を醸し出しているのか妙に気分が高揚しているのを感じ、俺もまだまだ餓鬼だと自嘲じみた笑いが漏れた。

「……あんた、大丈夫なのかよこんな真似して」

ふと問われたそれに首を傾げる。そして思い立った答えに合点がいき、それと同時に今それを考えるだなんて余裕を見せる井吹に対して何かしらの悪戯を仕掛けてやりたい気持ちとが交錯した。

「……ばれたら、切腹かもなあ」

我ながら意地が悪いことは承知の上、吐息混じりで耳元に囁きかければ。きゅ、と瞳を閉じて震える井吹により一層の加虐心が増したのを感じ小さく喉で笑った。

「でも、興奮すんだろ。なんだったらこのまま今夜は、床でも共にするか」

蒲団へと横になったまま、抱き抱えた井吹はそのままに背中に向けそう呟く。腕の中に居る井吹をこちらへと向けさせ向き合う形で瞳を覗き込めば。揺れる瞳に、くらりと、脳の奥が震えるのが分かり、ああこりゃもう今夜は帰せねえや、なんて。どこ吹く風宜しくこれからを期待する自分が居た。


夜遊び


(井吹が欲しくなった、)
(ぎゅう、と背中を掻き抱いた腕が払われることはなかった)
‐End‐
20110522.