- ナノ -

家族

広間に腰を下ろしてから直ぐ、眼前で繰り広げられ始めた睨み合いに今夜何度目かと思われる溜息を漏らし、いい加減この状況をどうにかすべきなのか周囲に視線を走らせた。

「ん、どうした四季。俺の飯はやらねえぞ」

俺の様子に気付いたえ左之がくつりと喉を鳴らして笑って見せる。ちなみに左之以外の連中は皆自分の飯を守るので精一杯の様で俺達の話は聞こえてねえみたいだった。あ、平助が新八に負けた。

「左之、俺は別にあんたの飯なんざ狙ってねえよ」
「だったらどうしたって言うんだ」

どうせ左之の事だ、この状況を楽しんでんだろ。俺の考えていることなどお見通しといった様にあえてシラを切る左之に溜息を一つ。その間にも目の前の二人による睨み合いは続けられていた。

「一と龍、一体何があってあんなになってるんだ。龍はともかく一の奴があんなにも睨みを利かすなんざ珍しい以外の何もんでも無えよ」
「ふ、気になるなら本人達に聞きゃあ良いじゃねえか」

盃の酒を煽り喉を鳴らせばそれきり左之は口を開く事無く俺の動向を見守っていた。あくまでも巻き込まれるつもりは無いってか。

「な、あ……一」
「……何用だ」
「いや、特に用って程じゃねえけど」
「ならば話しかけるで無い……井吹」

俺への言葉を遮ってまで龍を睨む一はすげえ恐い。対して龍はバツが悪そうに視線を逸らしてそっぽを向いている。なんつうか、拗ねてんのかこの反応は。いや、それにしちゃあ一の態度は可笑しい。どちらかと言えば龍に怒ってるっつうのか、まあとにかく雰囲気が息苦しいことこの上ないわけで。

「一、龍と何かあったのか?」

意を決して一に聞けばさっきまで龍を睨んでいた表情そのままで今度は俺が睨まれる羽目になった。

「斎藤が一々俺のやる事なす事に突っ掛かってきやがるんだよ」

一が口を開く寸前にぽつりと呟かれた言葉。やはり幾分かふて腐れたかの様に呟く龍の姿はさながら餓鬼みてえで何故だか笑えた。

「やれ部屋が汚えだ、やれ食事の取り方がなってないだとか散々口喧しく言われりゃあ拗ねたくもなるだろうが。あんたは俺の母親かっつうの……っ、う」

一を指差して言い切る龍の頭を叩く一。うわ、今結構酷え音した気がするんだが。あーあ、龍の奴頭押さえて目を潤ませてやがる。

「一、叩くことはねえだろ。あと龍、お前も人に指差すのは止めとけ」

頭を押さえる手を退かせて軽く撫でる様にしながら龍に言い聞かせれば渋々と言った様子で頷くのが分かった。

「……なんつうかお前ら、斎藤が母親で四季が父親、そんで龍之介が息子の家族みてえだな」

ふは、と笑いながらそう言った左之に俺は今夜もう何度目かと分からない溜息を吐いた。


家族


(……あんた達が親とか有り得ねえだろ)
(左之、それならあんたは井吹の兄になれば良い)
(おー、成る程。そんじゃあ俺の嫁さんが一で息子達が左之と龍ってわけか)
(中々楽しそうじゃねえか。斎藤、良い考えだな)
(……俺の意見は丸無視かよ)
‐End‐
男主と井吹シリーズ│男主+原田+斎藤+井吹
設置/20101122〜20110520