- ナノ -

日常

「まーた、歳さんは一人で抱え込んでる」

ふらりと現れる四季を一瞥した後、それまでと変わらず文机に向かう土方。対する四季はそんな反応も慣れていると言わんばかりに肩を竦め苦笑を浮かべて見せる。一見何のために同じ部屋に居るのか、疑問に思いたくもなるがこれが二人の日常なのだ。一日の隊務を終え、茶菓子を片手に土方の自室を訪れる四季には何よりもこの時間が大切であるし、また土方にとってもいつの間にかこの空気が心地良くなっていたものだから四季の行動にも閉口せざる他無かったのだ。

「今日の茶請けは中村屋で新発売の桜最中。はい歳さん、口開けてみ」

盆から最中を一つ手に取り土方へと声をかければ渋々といった様子で口を開くのが分かる。その姿に満足気に笑みを浮かべ半分に割った最中の片割れを開かれた口元へと宛がった。

「どう、俺が朝一で並んで買って来る程の価値はあるでしょ」

もう片割れに舌鼓を打ちつつもそう聞けば。ああ、と小さく頷きが返された。

「……四季、お前は確か今日は昼餉まで非番のはずじゃあなかったか。昨晩は深夜の巡察当番だっただろうが」

不意に呟かれた問いに苦笑を浮かべる四季。確かに昨晩は巡察の当番だったために屯所へと戻り床へと着いたの丑の刻を半刻程過ぎた時だった。連日隊務が重なったため今日は半日非番を貰っていたわけだが、#名前2#は以前から目を付けていた新発売の最中を朝一で買いに行こうと計画していたのだった。その旨を掻い摘んで話して聞かせれば土方からは案の定苦笑ともとれる声が漏らされた。

「……歳さん、そんなに苦い顔しないでってば。俺は今こうやって歳さんとこれを食べたいが故に買って来たんだから、さ」

頬を指で掻きつつ、ふわりと笑みを浮かべてそう口に出せば。一瞬呆けた後に珍しく眉間の皺を和らげて笑う土方の姿があった。


日常


(あ、歳さんのほっぺたに餡着いてる)
(……どこだ)
(ん、此処……ふは、やっぱ甘い)
(……馬鹿、何してやがんだ)
(歳さーん、顔赤いっ)
‐End‐
20101011.