非日常の日常
「あ、」
本日の仕事を終え自宅へと戻るにはまだ早い時間、四季はガードレールへと腰掛け先程買ったばかりの缶コーヒーを口にした。無糖のほろ苦さが咥内に拡がることに舌鼓を打てば不意に見慣れたバーテン服が歩いて来るのを視界の端に捕えた。何気無しにその様子を伺えば静雄の様子は普段よりもいくらか機嫌が良い様に思われる。どこが、と聞かれれば明確な答えは出しかねるがなんとなく、彼を纏う雰囲気が普段よりは柔らかく感じられたのだ。
「あ、四季さん。仕事上がりっすか?」
此方に気付いたのか傍へとやって来る静雄に頷けば隣へ良いか、との問い。
「んなのいちいち聞かなくても構わねえって」
くすりと笑い少しスペースを開ければそこへと腰を下ろす静雄。飲むか、と。#名前2#の差し出した缶コーヒーへ遠慮がちに口を付けた静雄にまた小さく笑いが漏れた。
「あ……と、珍しいっすね四季さんがこっちに居るって」
笑われたことに対する照れくささなのか幾分か早口で問われた言葉。
「ああ、今日はこっちで取材があってな。予定よりも早く終わっちまったから適当にぶらついてたとこでな。でもまあこうやって静雄にも会えたし、俺的には良かったわ」
「お、れも四季さんに会えて良かったっす」
四季のストレートな言葉に僅かに頬が熱を持ったのを感じ静雄は慌てて俯く。雰囲気でまたも四季が笑うのを感じればそろりと顔を上げ照れくさそうに微笑んだ。
「静雄、今日は随分機嫌が良さそうだな。何か良い事でもあったのか?」
「え、んな風に見えますか」
特に思い当たる節が無く首を傾げた静雄に#名前2#は先程の静雄の様子を聞かせた。
「雰囲気が柔らかく見えた……すっか。あ、分かりました原因」
四季の言葉を聞き僅かに考える素振りを見せた後に呟かれた言葉。
「多分、四季さんの事考えてたからじゃないっすか。ちょうど、会いてえって思ってたんすよ」
へらりと笑ってそう言った静雄に対して四季は一瞬呆けた後にくつくつと笑い声を漏らした。その様子に静雄が首を傾げる、と同時にぐしゃりと金髪へと左手を滑り込ませる四季。
「はは、本当静雄は可愛いよな。なんつうか、ずっと傍に置いておきたくなるっつうか……誰にも渡したくなくなる」
そのまま暫く静雄の髪の柔らかさを堪能しつつ缶コーヒーを啜れば撫でられている静雄の頬は赤みを増すばかりだった。
‐End‐