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あの人と俺達

※SSL
未だにぶつぶつと文句を言う龍之介を引きずりながら道場を目指して廊下を歩く。少し後ろでは俺に右手首を掴まれた龍之介が負け惜しみよろしく、俺はただあの人に、だとか呟いている。

「龍之介ー、良いじゃん別に。お前だって四季さんに会いたかったんじゃねえの」
「べ、別に俺はただ礼を言いたいだけで会いたいだとかは、お、思ってなかったんだ」
「つうかそれって会わずには叶わねえんじゃねえの」
「……う、そもそも宮路さんが来るってのは確かなんだろうな」

俺の返しにふと思い付いたかのように声を上げる龍之介。そんなの俺が知る分けねえじゃん、俺は土方さんから今日昔の知り合いが部活見学に来るって聞いただけだし。それを龍之介に話したらもしかすると四季さんなんじゃねえかって考えに辿り着いたわけで。クリスマスの礼も兼ねて会いてえなって思ったから今こうやって龍之介共々道場へと向かってるところ。

「俺が、何だって?」

まだぶつぶつと繰り返す龍之介を変わらず引きずっていれば不意に後ろの方から声を掛けられる。よお、平助。だなんて新八っつぁんが手を振ってて、その少し後ろには左之さんと、前に一度だけ会った四季さんが見えた。

「あー、覚えてっかな。俺だよ俺、千鶴の」
「四季、さん」

言いかけた台詞を遮って名前を出せば。数回の瞬きの後に爽やかな笑顔を浮かべた四季さん。

「藤堂君に井吹君、久しぶりだなあ。つうか覚えてくれてたうえに名前呼びとかすげえ親近感沸くわ」

そう言ってへらりと笑うと四季さんはいつだかと同じように俺と龍之介の髪をぐしゃりとかき混ぜた。

「あ、のっ 俺は平助で構わねえから。龍之介も、そうだよなっ」

ずっと言おうと考えていたことを伝えれば。俺の言葉に四季さんはきょとんとした表情を浮かべた後に、それじゃ平助に龍之介、な。そう言って微笑んだ。たかが名前を呼ばれただけだってのにそれが妙に嬉しくて、やったな龍之介、と。龍之介の肩に腕を回して言うと、龍之介も満更じゃねえように小さく笑ったのが分かった。


あの人と俺達


(あ、あんたにあの時の礼が言いたくて)
(そうそう、四季さん、クリスマスはありがとな。おかげですげえ美味いケーキが食えたんだ)
(ふは、律儀だなあお前らは。んな喜んでもらえるとまたご馳走してやりたくなるわ)
(お、俺行くっ)
(な、おい、平助っ)
(龍之介も、勿論来るよな)
(……う、)
(……なあ左之、宮路さんってやっぱり餓鬼慣れしてるみてえだよな)
(だな、平助と龍之介があんなに尻尾振り回してんのもまたなんつうか)
(……すげえな、宮路さん)
‐End‐
20110514.