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かこばなし

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急な会議が入ったから先に職員室に行ってろ、歳から届いたメールに苦笑を漏らしつつ職員室のドアへと手をかける。第一知り合いも居ねえのに俺一人を職員室に通したところで一体俺は歳が来るまでどうしてりゃあ良いんだと、返答の来ない問いかけを何度目か繰り返したところで、がらり、とドアが開けられるのが分かった。

「うお、びっくりさせんなや……て、あー……もしかしてあんたが宮路さんっすか」

ドア越しに立つ男は短髪のがっしりとした体型でジャージを身に付け頭にはタオルを巻いていた。出された名前に頷きを返せば、どうぞ入って下さいよ、だなんて中へと通される。中に居たのは彼に加えてもう一人、こちらは赤毛でネクタイを締めた優男だった。何が何だか分からずにとりあえずと、勧められるがままに彼らの居るデスクの隣にある椅子へと腰掛けた――そういやデスク脇に書かれた名前からしてどうやらこのデスクは歳のだろうと理解出来た。

「土方さんが来るまであんたの相手を任された者だ、俺は原田で、こっちのデカブツが永倉ってんだ」

どうやら状況から察するに彼らは歳の同僚なんだろう、つまりは俺が退屈しねえようにと歳が予め話を通してくれていたようだと結論付けた。

「な、左之、そりゃあねえだろうがよ……と、確か宮路さんっつったか。俺らのことは気軽に呼んでもらって構わねえんで」

そう言ってからりと笑う永倉――お言葉に甘え、敬称は抜きにさせてもらった、だってほら流石に同年代の先生相手に君付けってのもどうかと思うし。隣では原田が喉を鳴らしくつくつと笑いを漏らしていた。

「あー、宮路さんは土方さんと同期って聞いたんだが、大学でか?」
「ん、同期っちゃ同期だな。あー……腐れ縁とも言えるな、なんだかんだ函館からだしよ」

意味が通じるだろうかと、半ば半信半疑で口に出せば。ああ、といった様子で頷く原田と意味が分からないのかしきりに首を傾げる永倉の姿があった。

「ったく、ちったあ頭を回らせろよ新八。函館っつったらあれだろ、五稜郭」

正にその通りだと、的確な回答をくれた原田に称賛の拍手を贈る。対して永倉は漸く合点がいったのか、ああ、だなんて大きく頷くのが見えた。つまり彼ら二人には俺達同様に記憶があると言うことで、それは要するに京時代の歳の話だとかも聞けるんだろうかと口元を吊り上げて笑いを溢す。そういや以前に会った藤堂君や井吹君、斎藤君なんかも当時の関係者なんだろうかと。考えれば考える程にこの後の部活見学が楽しみになった。


かこばなし


(あー……もしかして京時代も豊玉って)
(おう、詠んでたみてえだな土方さんは)
(……そういや発句集柄みで毎回総司の野郎とおいかけっこしてたよなあ)
(ふ、やっぱり沖田君なんだな)
(総司が、あんたに何かしたのか)
(いんや、こっちの話こっちの話)
(……総司も懲りねえよ野郎だよなあ、本当)
‐End‐
20110513.