- ナノ -

初対面

※SSL
「失礼します、こちらに土方先生がいらっしゃると聞いて」

古典資料室、表札の掛かった扉をノックしてそう声をかける。中から聞こえたのは、入ってこいよ、との返答。それから考えるにおそらく室内には歳一人しか居ないのだろうと推測した。

「ふ、相変わらず律儀な奴だな。約束した時間にぴったりじゃねえか」
「あー、ほら歳相手に五分前行動ってのもな。お前仕様だよ、俺が時間ぴったりに行動するのは」
「は、そうかよ……と、悪いがそこに座って待っててくれねえか。補講用のプリントが中々仕上がらねえんだ」

そう言って俺が室内に入ってきた時同様に煙草を銜えつつ机に向かう歳を横目に、暇潰しにとそこらにあった古典教材を手に取った。


「……っし、仕上がったぜ。ったく、あいつが馬鹿みてえな真似するから余計な手間かけさせやがって」

言うと同時に灰皿へと煙草を押し付ける歳と読んでいた教材を元の位置に戻す俺。なんとなしに予想付いたことを聞けば、どうやら以前からちらほらと名前の出ていた沖田という生徒のことを言っているようで。

「……歳の手を煩わせるってのも中々度胸のある餓鬼なんだな、その沖田君とやらは」

そういや前に雪村家に飯を食いに行った際に千鶴と薫が話していた気がする。千鶴は千鶴で苦笑いだったが、薫の奴は殺気だってたしなあ。いやまあ歳がこう言うくらいだしとんだ曲者だろうとは思うけども。同情半分、好奇心半分でそう呟けば、全くだ、と苦笑混じりに返された。

「斎藤ですが、土方先生はいらっしゃいますか」

出された茶を啜っていればふと部屋のドアがノックされた。入ってこい、と歳が答えると控え目に開けられたドアからは制服をきっちりと着用した深い髪色が印象的なやや小柄な生徒が顔を覗かせた。

「すみません、来客の方がいらっしゃるのならまた後程に伺いますが」

ちらりと俺へ視線を投げて寄越したその斎藤君の言葉に歳は緩く首を振る。彼の手に持たれてる日誌的な何かを渡すよう言えば、生真面目に頷いて見せる斎藤君に自然と笑いが漏れた。

「……と、気を悪くさせたんなら悪いな。たださっきまで聞いていた沖田君とはまた対極だなあ、って」

弁解混じりに説明すれば。数度の瞬きの後に、こちらは、と歳へと控え目に訪ねる斎藤君の姿があった。

「……はあ、総司の奴とじゃ天と地の差だろうよこいつは。斎藤、こいつは俺の同期で宮路四季と言う。雪村の親族だが聞いたことは無いか?」

歳の言葉に沿って斎藤君へと軽く頭を下げる。対して斎藤君も律儀に俺へと向き直って頭を下げるモンだからますます沖田君との差異を見せられたようで再度笑いが込み上げてくるのを感じた。

「なあ歳、次回で構わねえから部活見学ってのをしてえんだが駄目か」

ふと思い付いた考えを元に見学についてを聞けば。俺の考えが分かったのか呆れ混じりに肩を竦められたものの了承の返答を貰えた。

「さんきゅ、歳。あー……次回が楽しみだ。……と、そういや言い忘れるとこだった、斎藤君」

歳に礼を言いつつ斎藤君へと向き直る。なんでしょうか、なんて畏まった返答をする斎藤くんの頭に手をやって髪を軽くかき混ぜる。

「千鶴がいつも世話になってるみてえだから礼言っとこうと。それと、敬語とかいらねえから肩の力抜いてな」

そう言って笑いかければ。きょとんとした表情の後に、僅かばかり頬が緩むのが見て分かった。


初対面


(……本当にてめえは初対面の奴と打ち解けるのが早えな)
(そりゃあまあ、職業柄)
(……宮路さんは何をしてらっしゃるのですか?)
(ん、教師だよ教師)
(ふ、まあそれがてめえの特技だろうしな)
(ふは、そういうこと)
‐End‐
20110512.