- ナノ -

非日常

「宮路君、君に文だよ」

そう言って渡された文は俺の手に渡る事も無く、腹立たしいくらいに口元を吊り上げた沖田の手元に未だあった。俺宛の文だと言うわりに一向にそれを渡す気配を見せない沖田に溜め息が一つ。そういえば報告書を書いている途中だったと思い出し、沖田が顔を覗かせた襖を奴の目前でぴしゃりと閉め再度文机へと向き直った。

「何、いらないのこれ?」

渡すのかそうではないのかをいい加減にはっきりさせろ、そう怒鳴りたくなるのを堪え筆を走らせれば。いつの間にか入ってきたのか、背後から回ってきた腕にあえなく連れていかれる筆。ちなみに墨に浸けたばかりでそこかしこに飛沫が飛ぶもんだから俺の眉間へは自然と皺が寄るのを感じた。

「……あんたが渡さないんだろうが、それともなんだ。俺に構われたいのかよ、やけに絡んでくるみたいだしな」

これで黙れば良い、奴の顔を見ることなく背中越しに吐き捨てれば。それから暫く室内には妙な程の沈黙が続くもんだから不審に思い振り返る。

「な、あんたその顔」
「……何、文句あるわけ?」

呟きへと返される呟きにくらりと脳が揺れたのを感じる。振り返った先に居た沖田は見ているこちらにも移るんじゃないかと言うくらいに頬に赤みをさしていたから。


非日常


(不覚にもその表情に見惚れた)
(そう伝えたらあんたはどんな返答をするんだろうか)
‐End‐
20110507.