- ナノ -

幸福

渋る左之に半ば強引に腰を下ろさせたのが今から少し前の事。渋々と言った表情を隠すこと無く胡座をかく左之の膝に頭を乗せて横たわれば。ったく、だなんて口では可愛いげの無い言葉を吐きつつも空いた手で俺の髪を撫でる左之に頬が自然と緩むのを感じた。

「ふは、良いねえたまにはこうやって左之の顔を見上げるってのも」

頬は緩んだまま、そう呟けば。何言ってやがる、なんて言葉と共に頭を小突かれる。

「あー、でも確かに……良いかもしれねえ、な。お前を見下ろすってのも」

ぼそぼそと告げられたそれに再度頬を緩ませれば。ばーか、と。俺と同じように緩んだ頬そのままの表情で呟く左之。あー、幸せだな、と。俺の髪を撫でる手を取って漏らせば。数度の瞬きの後に緩く微笑む左之が居た。

「好きだぜ、左之」

そう伝えながら手の甲へと口付ける。そんな俺に左之は小さく息を吐いて、そして身を屈めてくる。軽い音と共に額へと落とされた口付けに今度は俺が瞬きを繰り返す番。

「俺も、四季が好きだぜ」

綺麗に微笑んでそう言われたら。途端に膝から頭を上げて左之の身体を抱え込む。突発的な俺の行動にも左之は拒むこと無く相変わらず綺麗な笑みを浮かべて見せた、そんなある日の昼下がり。


幸福


(左之さーん……て、……ちょ)
(うお、馬鹿野郎急に止まんじゃ……て、)
(へえ、随分と仲が宜しいことで……ね、四季に左之さん?)
(ん、羨ましいだろ)
(うわ、すげえ開き直った)
(……四季、余計な事言ってんじゃねえよ)
‐End‐
20110502.