- ナノ -

表情

※SSL
龍之介が絵を描いている時の表情が好きだ、ふとそう思ったのはキャンバスに向かう龍之介の横顔を苺オレのパック片手に見詰めていた時だった。デッサン人形だとか、まあそんな感じの石像を相手にキャンバスへ鉛筆を走らせる龍之介の表情がとても綺麗だと。

「キャンバスが羨ましい」

不意に漏れたその言葉に龍之介は訝しげに俺へと視線を向けた。わり、なんて軽い口調で謝れば首を傾げつつも再度キャンバスへと向き直る龍之介の横顔を先程同様に見詰め続ける。俺は絵心だとか、そう言った物は生憎ながら持ち合わせていない。だから龍之介の描く絵が上手いか下手かなんて分からない。ただ、思うのはキャンバスに向かう龍之介が綺麗だと言う事。

「……俺の顔に何か付いてるか」

遠慮がちな声音で問われたそれに首を振って。何の前触れも無しに腰を上げて龍之介へと近付いて、俺を見上げた龍之介の額へとキスを落とす。

「キャンバスに嫉妬した。龍之介のその表情、独り占めしてえんだよ」

俺の言葉に瞬きを数回。徐々に頬を赤くする龍之介の腕を引くまで、後――秒。



表情


(……っ、宮路)
(ふは、顔真っ赤だけど)
(あ、んたが急にっ)
(はいはい、後でたっぷり聞くから……キスさせて)
(……っ、)
‐End‐
20110501.